ー10周年イヤーの活動お疲れ様でした。 次のステップへの第一弾が今作ですが、ライブ盤アルバムのリリースは今回が初。 こういうアルバム内容になったのはどういう経緯から?
■村上 学 ( Vo/Gt ) : そうですね。 先日10周年ツアーが終わるまでは、10周年イヤーとしてやってきたことで頭がいっぱいだったんで、最近まで10周年が終わった後何をしようか、割とアイディアがぼんやりしてたんですけど、ツアーで立て続けにいいライブが出来てたのもあって、まだやったことのないチャレンジとして、ライブ盤CDのリリースをする事にしたんです。 ただ、10周年を形に残すだけじゃなくて、先につながる作品にしたかったから、新曲もレコーディングして頭に1曲入れ込んで、今回のアルバムの形になりました。
ー その新曲「冒険」(M1)、歌詞はバンド人生そのものを描写したような内容でしたけど、これは自分の視点からのバンドの事を歌ったもの?
■村上: そうですね。 今回、自分から「新曲を入れたい」って言ったはいいものの、今回の作品にハマる感じのストックがあった訳ではなかったんで、いちから数曲作って、その中から絞ってこの曲になりました。 これまでなかったくらいにレコーディングぎりぎりまで作曲作業が続いていて、スタジオに入る2週間前くらいにようやく完成っていう結構詰まったスケジュールでした。 歌詞に関しては、やっぱり10周年終わって、また新たな冒険をしなきゃな、っていう気持ちがあったんで、そのテーマでそのまま書いたものです。 あとは、歌詞を書く時ってどうしても自分の日常的に使い慣れた言葉で完成させていくじゃないですか。 そういう意味で “冒険” とか “青春” みたいなキラキラした感じのことばって僕の場合普段使わない単語なんで、今回あえてそこから ”冒険” っていう単語をタイトルに持ってきた、っていうのもあります。 “冒険” っていう言葉を使うこと自体が一番冒険だったかもしれないですね(笑)。
ー “冒険” っていう単語、イメージ的に少年のような存在ですもんね。
■村上: そうなんですよ。 ただ、やっぱり僕が書く「冒険」なんで(笑)、歌詞の中で根拠のない何かを信じて前を向いてがむしゃらに進んでこう!とか、何度だって立ち上がれる!とかは言えず、「必要なのは希望なんかじゃない」とか言ってたり、一辺倒に明るい冒険にはできなかったですね(笑)。 自分なりの冒険の定義を書こうと思ったんですよ。 後ろ向きになってるトラウマとかコンプレックスみたいな足を引っ張るものに一旦スポットライトを当てて、それを噛み砕いて理解して受け入れることで、何かしら次のドアがひとつ開く、みたいな、そういう冒険の仕方が自分らしいな、と思ったんで、そういう内容の歌詞にしました。
ー 村上さんっぽいですね(笑)。 でも楽曲も含めた全体像からはむしろポジティブなイメージを感じました。
■村上: 青春真っ只中の時って、自分が何でもできるような気がするじゃないですか、世の中が自分次第でどうにでもなると思えたり。 そういう時期を経て、今バンドで10周年を終えて、メンバーみんなそれぞれ自分と音楽の向き合い方を考え直した時に、自分ができることと同じくらいの数、自分ができないことが見えてきたんですけど、そうなった時に無い物ねだりで羨ましがって妬むより、自分ができないことを知ったが故に見えてくる自分にできることっていうのを喜ぶべきだな、って思うんですよ。 そういう類のポジティブさはあるかもしれないですね。 音楽性とかもそうなのかな、他のバンドがやれてることと、僕とかこのバンドがやれること。 自分がやれることをやればいいんですよね。
ー そういう意味では、歌詞の一節「悲しみは 燃やして走れ」っていうのも村上さんらしいフレーズですね。 ネガティブコンテンツを燃料にしてポジティブに進むっていう。
■村上: 負の感情の中でも怒りってエネルギーになり易いじゃないですか、前を向くパワーになり易い。 でも悲しみってエネルギーになりにくいですよね。でもエネルギーに全くならないかっていったら違うと思うんですよ。 “悲しい” っていう感情が発生するってことは、それは人間にとって必要な出来事であって、それを燃やすんだ、ってことをこの曲で言いきれたら、怒れずに悲しみに打ちひしがれてるような人たちの支えになれるのかな、って。 僕自体やっぱり所属レーベルの中の部類で言えば沼地系なんで(笑)、うじうじして湿度が高い人間じゃないですか(笑)。 だから怒りより悲しみの方が多く直面するほうなんで、「燃やして走れ」っていうのは、同じような思いをして生きてる人たちに刺さってくれたらな、って思って書いたフレーズです。 難しいんですけどね、一回向き合ってスポットライトを当てて昇華させるっていうのは必要な作業だと思うんですよ。
ー この曲はどんな状況で出来上がったものですか?
■村上: この曲に関しては、驚くほど曲と歌詞が同時に出来上がったんですよ。 去年の年の瀬、大晦日に。 歌詞もそれからほとんど加工してないし。 リフから最初にできて、それをピアノで弾いて、そこにベースを当てて出来ていったんですけど、その当時の自分のメンタル面とは真逆のものが出来上がったんですよね。 その時のそのままのテンションで作っていたら、もっとスローテンポなバラードしかできなかったと思うんですけど、ライブ盤の1曲目にいれる曲、っていうつもりでずっと作曲してたんで、自分を燃やして燃やして頑張って薪をくべ続けてたらある日、ふと出来上がったっていう感じでした。 途中で何度もロックの神様に見放されちゃったかな、って思ったんですけど、出来上がってホッとしましたね(笑)。 少し前までは無敵状態の時期があって、ロックの神様と対話できまくってたんですけどね(笑)、「こういう感じの曲が書きたいです」ってお願いしたら、はい、ってアイディアが降ってくる、みたいな(笑)。 でも最近は神様、「もう10年経つんだから自分でなんとかしなさい」って先をスタスタ歩いていっちゃってる感じがする、というか。 で、それでも必死に追いかけてしがみついてると「もう、しょうがないなぁ…」ってポロっと破片を落としてくれてそれを拾う、みたいな感じの繰り返しです。 だから今はそういう時期なんだと思います、必死にしがみついてどんな小さなアイディアでもいいから湧き出てくるのを耐えて待って、喰らい付く。 恥を忍んででもそういう貪欲さで作り続けるっていう事を今はやってますね。
ー 頼っていたものから自立してく、っていうのは例えばジャンルとかサウンドの路線との付き合い方とも一緒かもしれないですね。 この「冒険」なんて特にですけど、テスラもどんどん作品を出すに連れて、そういう “ジャンル” とか ”○○系” とかみたいなシーン全体で形容される音楽の特徴、これから離れていって、自分がいいと思うかどうかでフレーズとかビートを組み立てていってる感じがします。 神様からの自立は、それとリンクしてる感じがします。
■村上: これまでの自分たちの概念を壊して更新していきたい、っていう気持ちはすごくあって、確かに音楽性は自立を進めている段階かもしれないですね。 歌詞に関してはまだまだ壊していきたくて、楽曲に関しては結構僕は周囲の意見を聞けるんですけど、こと歌詞になるとまだエゴが強い。 次はそこだな、と思うんですよ。 まず今回は10周年の先の僕らとしての最初の一歩なんで、このタイミングで自分とじっと向き合った新曲と、10周年イヤーのライブの臨場感を今回こうやって形に残せて、次にまた行けるっていう今の状況がなにより一番ポジティブかなと思います。 今作ってる他の新曲も早く世に出して行きたいですね。