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the quiet room 菊池遼 Where is the stone?
- SPECIAL -

the quiet room 菊池遼 Where is the stone?

Stone in the “話をしよう” #2

最近、思い立って文通を始めた。作業台のパソコンやインターフェースを退かして、紺色の枠があしらわれたシンプルな便箋と向き合う。近くの本屋でなんとなく手に入れたこの便箋はきっと良いものなのだろう。なんだか懐かしい香りがするし、何よりとても書き心地がよかった。

しかし、まあ、自分の力で言葉をしたためることがこんなに大変なことだとは思わなかった。無意識のうちにAIの予測変換に頼りきった生活を送っていたことに気付く。今までどれだけの言葉が僕の意識の外で流れては消えていったのだろう。端から端まで意識を集中して、便箋にインクを染み込ませていく。そう、それはあなたの為の言葉だから。

仕事の為に作った作業台の上があなたへの思いだけで満たされていく様子は愛おしくて、それでいて少し罪悪感があった。これは家に閉じこもって暮らす今しか出来ないであろう密やかな時間なのだ。この手紙が届く頃、あなたは何を思うのだろうか。笑って過ごせていたらいいな。この手紙が少しでもあなたの生活を色付けたらいいな。祈るように便箋を封筒に仕舞った。

本当のことを言ってしまえば、あなたの隣で目を見て話がしたいと願う。今はそんなことを言える状況ではないけれど。もう少ししたらきっと世の中も落ち着くから、そうしたら二人で鎌倉に行こう。当たり前の日々を大切に思わせてくれた今を、大切に過ごそう。

mini album「White」収録曲 “話をしよう”より