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ハルカトミユキ interview
- SPECIAL -

ハルカトミユキ interview

2015年、毎月新曲配信、4月と9月にミニアルバムをリリースし、10月には日比谷野外大音楽堂でワンマンのフリーライブを敢行し、見事3000人を集めたハルカトミユキ。既存の自分たちを次々に乗り越え、情熱的な活動で自分たちの音楽を表現し続けている。そんな彼女たちが8月17日に2ndアルバム『LOVELESS/ARTLESS』をリリースする。これまでのハルカトミユキの世界観をさらに進化させ、互いが持つ個性を存分に発揮した10曲には自らの壁を乗り越え新たなるステージへ向かう2人の力強いクリエイティビティを感じさせる。2年9ヶ月ぶりのリリースとなる今作についてハルカとミユキに語ってもらった。

ハルカトミユキというものに改めてちゃんと向き合った
–ハルカ

ー2ndフルアルバム『LOVELESS/ARTLESS』ですが、今までのハルカトミユキのイメージを刷新するような内容だと思いました。歌詞はどのようなコンセプトで描いているんですか?

ハルカ(Vo/Gt): 歌詞を書くときは最終的には聴いている人の背中を押すような、希望的方向に持って行きたいと思ってるんですが、それを”頑張れ”とか軽々しい表現でするのではなく、心の醜い部分も曝け出して「こんなこと思っているのはアナタだけじゃない」って方法で表現していきたいと思ってるんです。私も音楽を聴くときはそういう聴き方をして救われてきた。自分の醜い気持ちや他人に言えないことを、この人が歌ってくれている。こんなことを考えている人が自分以外にもいるんだってことに救われてきたので、自分の言葉で同じように感じてくれたら嬉しいです。

ーアルバムとしては2年9ヶ月振りのリリースとなりますが、昨年は13ヶ月連続で楽曲配信を行いミニアルバムもリリースしています。作品フォーマットとしてアルバムという形式にこだわりはありますか?

ハルカ 1stフルアルバムを2年9ヶ月前に作って、今作でまだ、2ndなのかって、私自身ビックリしました。もっとたくさんリリースしてきた気持ちだったので。フルアルバムを制作すると決めたときは配信とは違う向き合い方を感じましたね。毎月新曲を出すってことは、ある程度趣向を凝らす必要もあって。アルバムとなるとそれだけではいけない、作品に対して、じっくり向き合いたいしそうでなくちゃいけないと思いました。だから今作はハルカトミユキというものと、改めてちゃんと向き合って作った感覚があります。それはフルアルバムだからこそできたことで、別にコンセプトアルバムではないけれど、ここに今の私たちのストーリーが絶対ある。フルアルバムじゃなきゃ絶対できないっていう思い入れはすごくあります。

ー配信はデジタルですが、作品はCDとブックレットという形に残るものです。時代的に考えても音楽はデータとしてダウンロードされたり消費される回転が早くなっていると思うのですが、アルバムという物を残すことへのこだわりはありますか?

ハルカ 今は何でも次々に消費されちゃう時代だし、その方が手っ取り早いし、そういうものが求められていると思うんですけど、それでも、1周回って良いものが残るし、残って欲しいと思うんです。この考えは時代錯誤かもしれないけど、まだそう信じたいじゃないですか。大量に消費される時代に乗っかるよりも、私たちの音楽はちゃんと大事に残してもらえるようなものを作りたいと思います。

ミユキ(Key/Cho) 良い曲はアルバムでちゃんと聴かなきゃいけないと私自身思うこともあるし、今までは自分らしさの表現ばっかり考えてたけど、今回は今まで以上にお客さん、リスナーのことを意識しながら作ったんです。アレンジに関してもどうしたらアルバム全体のバランスが良く取れるだろう、と。結果として、1曲からバトンを繋いでいるように、最後の曲までストーリーがあるような作品ができたと自分では思っています。私、もっともっとたくさんの人にハルカトミユキを聴いてもらうきっかけを作らわなくちゃいけないって気持ちが強くなったんです。だから、1回でもいいからアルバム通して聴いてみて欲しいです、だまされたと思って。

ーちなみに先ほど音楽の聴き方の話が出ましたが、2人はどんな音楽の聴き方をしているんですか?

ハルカ まずは歌詞に興味を持ってから、です。そもそも最初に音楽が好きになったのも歌詞を見て読んで「自分だけじゃないんだ」という感覚から入ったので。だから、音楽を聴き始めた頃は、パンクもけっこう好きだったんです。汚らしいことや攻撃的なことを包み隠さず歌って、それでいて聴いている皆が救われる表現をするアーティストがいて、すごく良いなと思ってのめり込んでいったんですよ。そこからフォークソングも好きになって聴くようになって。フォークソングとパンクの言葉は似ている部分があると思うんです。フォークは反社会で反体制的なプロテストソングっぽいところがありますけど、あんなに音数の少ない音楽で、訴えていることはやはりすごく濃い。ガチャガチャうるさいだけが攻撃的な音楽じゃないっていうのを学んだんですよね。未だに大好きで聴いています。

ミユキ 私はハルカとは違ってサウンドから聴くんです。歌詞も内容じゃくて音のハマり方が良いとか。音のハマりが良くて自然に歌詞まで覚えちゃう曲があるくらいです。中学生の頃、ORANGE RANGEの大ファンで(笑)学校さぼって、宇都宮から1人で横浜アリーナのライブに行ったりしてたんですが、今思い返せば、あのときは友達もいなかったし、ライブに行くためだけに頑張って生きて、つまんない田舎の現実を忘れたくて無心で音に乗って楽しんでいたんですよね。当時は音楽をやるつもりはなかったんですけど、こうして音楽を作るようになった今、私も誰かにとってのそういう存在になりたいと思うようになりましたね。

ーミユキさんは特に好きな音楽のジャンルは何ですか?

ミユキ 正直、音楽的にそもそも自分が何を好きなのかがわかっていなかったんです。一昨年辺りかな、3rd e.p.を出した後くらいなんですが、なかなか曲が出来なかった時期があったんです。そのときに思い出したのが、さっきも話した中学生の頃のことなんです。「ORANGE RANGE大好き!」って、大学生くらいになると言えなくなるじゃないですか、変にカッコつけて(笑)。色々思い出して聴いてたら、やっぱり私はこの王道なわかりやすさが好きなんだなって確信して。ディズニー音楽も昔から大好きだったし。音楽に対して素直な気持ちになれて見つけたのが80年代の洋楽です。具体的にはニューロマンティック[※2]というジャンルで、特にヒューマン・リーグ(The Human League)[※2]には衝撃を受けましたね。サウンドもわかりやすくシンセも乗れる音だと思うしPVもすごい。ただ明るいだけではなく、「現実は辛いし嫌になるけどとりあえず今は楽しもう」って時代感がすごく伝わる音楽で、これが私の軸になったら良いなと思ったんです。そういう80年代の洋楽や、誰にでも伝わるわかりやすさを考えたメロディが、今作に繋がっています。

 

わかりやすくて人が共感してくれるものを作らなくちゃ
–ミユキ

ーそういう意味では、これまですべての楽曲の原曲をハルカさんが手掛けられていたスタイルから、今作では収録されている曲の半分をミユキさんが手掛けているのも、これまでとの大きな差ですね。作曲するにあたって何を意識しましたか?

ミユキ 今年の2月に本格的にアルバム制作が始まってからは、ハルカトミユキに対して私ができることはなんだろうって考えはじめて、それはやっぱり歌モノをやっている以上、ハルカの歌声や歌詞言葉がより多くの人に伝わるメロディを作らなくちゃいけないと意識が変わったんです。去年は自分の軸になった80年代の音楽を見つけたのが嬉しくて、とにかくその要素を散りばめたくて突っ走って、ハルカが作った曲にどう自分の音を入れてアレンジするかを試行錯誤していました。でも、曲の外側の部分であるアレンジだけではなく、もっとハルカトミユキの核を作らなくちゃいけない。じゃあ何かできるのかと考えたら、歌詞は書けなくてもメロディは作ることができる、と思ったんです。今までは自分が楽しいめる音楽であれば良いという意識だったから、例えば「これがはるかトミユキの顔です」って表題曲としてリリースできる曲を作れていなかったと思うんですが、わかりやすく人に伝わるもの、共感できるものを作らなくちゃいけない。その上で、自分の好きな音をどのくらい組み込めるか、と考えが逆転するようになって、今作では半分を作曲することができたんだと思います。

ーハルカトミユキにとって、今作は曲の作り方そのものに変化があったということですか?

ハルカ 今までは基本的に私が弾き語りで作曲して歌詞もその段階で乗っていたり、後から乗っけたり、という感じでした。その後、ミユキにシンセフレーズを入れてもらったり、アレンジをお願いすることが多かったんですけど、それはあくまでも私の中のイメージにあるものだけだったんです。ハルカの世界をミユキが色づけをしているというものだった。それでは絶対に限界があるし、ハルカトミユキの1番いい形は、2人がもっと根本的なところから入り交じっていたり、お互いに無い部分を引き出し合うこと。それが2人で活動している意味だとずっと思っていたんです。だけど、今までは私が作詞+ほとんど作曲。それが今作では、私の意識を飛び越えた曲がミユキから出来てきたり、そうするとそこに乗る歌詞も変わってきたり、自分で書いたメロディには乗らない歌詞も書けたりとか。今作は「1+1=2」というレベルではない、もっとすごい広がり方をしたと思います。しかも私は舞台もやりながら制作していたので、今まで全部やっていたものがミユキから出てくる物が半分あるってだけで、全然違う気持ちで挑めました。曲の作り方も違うし、以前に比べると歌詞を書くことに関しても、気持ち的に余裕がすごくあったというか。

 


今、自分は誰なの? って感覚に陥った
–ハルカ

ーハルカさんは最近、舞台に出演されていて演技としても自己表現されているんですよね。そういった音楽以外の活動も今作に影響を与えましたか?

ハルカ それはすごくありますね。歌う表現についても言えるし、歌詞の表現もフィクション寄りになったと思います。矢島弘一さんという監督脚本家が主催主宰の劇団(東京マハロ)の作品に春と夏と2本出演させていただいたんですが、脚本自体が、普段人前では隠している人間の深層心理を暴き出されるような内容で、それを演じることで、ああ、こういう感情表現があるのか、とすごく刺激になりましたね。今までは割とノンフィクションで、基本的には自分の体験がメインだった。今作は元にあるのは自分の体験だけど、そこから広げていくストーリーや物語が想像を超えて書けて、自分自身の歌気持ちだけを歌ってるわけじゃない違う表現ができたと思うんですが、その広げ方は役者をやらせていただいた影響が出ていると思います。自分じゃない誰かの物語を今まで以上に書くことができました。

ー舞台にアルバム制作、ライブ活動。それぞれ表現することや内容が違うから、混乱してしまう部分はありませんでしたか?

ハルカ 舞台が決まって、アルバム制作期間の途中からツアーをしながら移動中に台本を覚えたり、曲や歌詞を書いたりって日々が始まったんですけど、もはやそれぞれを時間で区切れない感じでやっていましたね。全て同時進行。だから”今、自分は誰なのか? みたいな感覚になることもありました(笑)。台本を読んで、その人の気持ちになっているときに、歌詞を書こうとしたら「今は私、ハルカトミユキのハルカなのか舞台の中の役なのか、誰なのか?」となる瞬間があったんです。でも、それはそれで面白くて。別に何でも良いんじゃないか、自分が誰なのかはこだわることじゃないな、と。それは逆にフィクションっぽさに繋がるし、役の自分であっても別に私は私でしかないから、このまま素直な状態で表現すれば良いんじゃないかと思って、区別せずそのまま流れの中で曲も歌詞も書いて、ステージで歌って、という風にしていったんです。

ーそういう意味でハルカさん自身ではない別人格、いわゆる舞台の役のキャラクターが書いちゃった的な曲もあったりしますか?

ハルカ 9曲目『you』は明らかに私ではないと思いますね(笑)。4曲目『Pain』はまぁ、私自身かなぁ…。7曲目『トーキョー・ユートピア』もちょっと違う人格が入っているかもしれませんね。(脚本の)矢島さんは、役者の特性に合わせて本を書く方なので、舞台での役は私の人間性に寄せて作ってもらっているから、まったくの別人のような感じではなかったんですけど、それでも役作りと楽曲制作、同時進行だったので、自分自身とは少し違う人が入っていたかも。どこか影がある、孤独だったりする役で心情的にはシリアスなキャラクターでしたね。

ー一方で歌詞の世界観はこれまでの心を抉るような強烈さもありつつ、確実な変化があると思います。歌詞の内容を含め、表現がもっとも難しかった曲はどの曲ですか?

ハルカ: やっぱり『奇跡を祈ることはもうしない』ですね。これは最後の最後まで歌詞ができなくて。曲自体は一番最初のプリプロからあったんですけど、完成形が見えなくて歌詞がなかなか進まなかったんです。ミユキがスタジオに持ってきて曲を聴いた最初の段階で内容のイメージがつかない。歌メロも少ないし、どこがAメロでBメロかわからないし、テンションがすごく低いと思ったらいきなり上がるし、なんだこの変な曲!って(笑)。日本語をどうやって乗せればいいんだろう、何を乗せればいいんだろうって最初は本当にまったくイメージが沸かなかったんですよ。ただ歌詞がない段階で、すでに曲にすごいパワーを感じていたんで適当にやれないっていう意識は強かったです。この形になるまで何パターンも書いて大変でした(笑)。

ー『奇跡を祈ることはもうしない』は作曲はミユキさんですが、この曲が今回のアルバムでの曲と歌詞を2人で作った初の共同作ということになりますか?

ハルカ この曲と言えばそうなんですが、後からできた曲にどんどん追い抜かれて結局最後に完成したんですよ。

ミユキ 曲自体は制作期間の早い段階で出来ていました。とにかく予測不可能でハッとするような、どこを取っても強い曲を作ろうと思ったんです。ハルカの歌の中で、この低い音が好き、高い音のこれが好きって選びながら、好きなものを全部詰め込めば強いものになると思って鍵盤とメロディラインだけでも強いと感じる曲を試行錯誤して作ったんです。私は邦楽よりも洋楽をよく聴くんで、最初のデモでの仮歌は英詞で適当に乗っけていたんですよ。それが多分、ハルカが歌詞を作りにくくしちゃった1番の原因になっちゃったのかもしれないですね(笑)。歌も含め、本当に大変な1曲だったと思うんですが、強い歌詞が乗って、強い声で歌ってくれて、アレンジも壮大ですけど、それに全然負けない良い曲ができたと思っています。

ーこの曲の歌詞はどこかプロテスト的な要素があり、今の日本の時代感や政治的状況へ対した内容だと感じられたのですが、そういった日本の時代感も世界観の1つとして表現しようとしていますか?

ハルカ 誰かに従っていれば絶対に正しい道があるって言えないじゃないですか。でも”従っていれば大丈夫”という声も聴こえてくる。本当はそうじゃなくて、ちゃんと自分で見極めていきたいし、自分で選んで自分で信じたものを信じていくってことこそが1番の自由なんだってことが歌いたかったんです。そういう気持ちは昔からあったんですけど、10代とか20代前半のそれは学生時代のちょっとモラトリアム的な気持ちだったと思うんですよ。今、改めて、自分たちの自由を歌うのであれば、ただのモラトリアム的なことじゃいけないと思って。誰にも共通する普遍的な欲求だと思ったんで、それを表現したいと思ったんです。だからこそ、どういう言葉を選んで歌詞にしたらいいかをすごく悩んだんです。例えば今の日本の現実的な世界を身近な言葉で生々しく書いちゃうと、なんだか曲がずれる気がして。最終的に時代背景とか国がパッとわからないようなニュアンスで書いたんですよね。今が何時で何処なのか、そこが曖昧で現実なのか物語なのか明確ではない書き方をしました。そうすることで、世界観にすごく広がりが出た。でも根本的に言っていることは、今、自分たちが生きている意志やメッセージを軸にしているんです。

ー今作の中で、今までとは違う手順で歌詞を表現した曲は他にありますか?

ハルカ 意図的に何かを変えたというのは全然ないんですけど、結果的に表現の仕方が変わっていったというのはあります。そもそも私が最初に思っていたアルバムのイメージが「ARTLESS」で、飾らないものにしてくて、偽りない今の2人で作ったアルバムだという気持ちがあるんですが、10曲目の『夜明けの月』がその象徴かな。この曲で、今までには表現してこなかったストレートな愛情を歌うことができた。その愛は恋愛なのか、友情なのか、家族愛なのか、はたまた人類愛なのかわからないんですが、愛という言葉も使う必要がないくらいに真っすぐな気持ちを書きたくて。今までの自分だったら、もっとひねくれていたり尖っちゃっていて書けなかったと思いますね。それが、この曲が持っている暖かさに言葉が呼ばれたという感じでどんどん削ぎ落としてストレートに表現できたんです。

 


私たちと同じように、何かが欠けている人たちへ
–ハルカ

ーアルバムのタイトルは『LOVELESS/ARTLESS』ですが、全体として愛を感じる作品だと思います。このタイトルはどういう流れで決まっていったんですか?

ハルカ 私が最初に『ARTLESS』という言葉をつけたいと思っていたら、ミユキが『LOVELESS』という言葉を持ってきたんですよ。それは多分、ミユキの中で私の歌詞の冷たさとか欠落感、何か常に愛に飢えている感じとか、そういうものを感じていたからだと思うんです。確かに私たち自身は愛に飢えているし、音楽的にも可愛気がないような存在として捉えられているだろうなという自意識はありました。でも、それは私たちだけじゃなく皆同じじゃないかと。聴いている人も皆、100%満たされている人や愛情で満たされている人なんていないだろうと思うし、だからこそ私は歌を作っているし歌を歌ってるんじゃないのかな? って。『LOVELESS』も『ARTLESS』も”LESS”という言葉がついているので、何かが欠けている私たちから、同じように何かが欠けている人への作品になれば、という意味で『LOVELESS/ARTLESS』というタイトルにしました。

ミユキ 『LOVELESS』っていうワードをイメージしたきっかけは『Pain』の歌詞を見て「この曲の主人公はなんて不器用な人なんだろう」って思ったことなんです。愛が欠けている不器用な人が愛されたいし愛したいと、すごく思っているんだろうって感じました。”LOVE”の表現をただ”好き”って言うより、欠けている人間が『LOVELESS』と愛を訴える方が好きだし醜いけど美しいと思うんです。私たち自身を端的に表しているし、作品も表現している言葉だと思ったんですよ。

ー現在は全国47都道府県ツアー「LIVE TOUR 2015-2016 ‘LIFE’」も真っ最中、パンクバンドなら全国47都道府県を回るツアーをやったりするのもよく見るのですが、2人組のユニットでそれを行なうのは、かなりのパワーが必要になりませんか? そもそもなぜ全県回ることにしたんですか?

ハルカ 逆に、2人だからフットワーク軽くできるというのはありますね。私の場合、極端に言えばアコギ1本あれば、すぐライブできちゃうんですよね。それがライブハウスだろうと、カフェだろうと、公園だろうと、自分が行けばやれてしまう。直接お客さんに会いに行けるんだったら行って歌を聴いてもらいたいという気持ちです。

ミユキ 去年の10月に日比谷野外大音楽堂で完全フリーワンマンをやったんですけど、そこで全国を回ることを約束して始まりました。去年は、毎月新曲を配信しながらも、「これじゃまだまだ届かない、ここで終わってたまるか」っていう焦りもあって、「じゃあフリーライブやっちゃおう!」っていう勢いで決めた。そのあと、事の重大さに震えるんですけど(笑)。とにかく人を集めなきゃいけないから必死になって、全国各地、色んなところで路上ライブをやって、人のライブ会場に押しかけてお客さん1人1人に手作りした無料のチケットを配って「来てください」ってメッセージを伝えたんです。なんとか皆さんの協力があって3,000人が集まって、無事に終えることができたんですけど。だから今度は、色んなところから来てくれた皆に私たちが会いに行かなくちゃいけないと思って。東京にいたら会えない人に会って、1人1人に直接自分たちのことを伝えて、コミュニケーションを取れる。それはすごく私たち自身の励みにもなるし、生まれてはじめて人間の繋がりの強さみたいなものを実感しています。このツアーのおかげで今回のアルバムも出来たと思うし。

ー全国ツアーはどのような感覚で回っているんですか? アーティストとして音楽を表現する気持ちなのか人に会いにいくような感じなのか

ハルカ どっちかと言うと人に会いに行く感じですね。私の知らないところで聴いてくれている人はいっぱいいると思うんですけど、その実感がないと、ありがたみも分からなくなってきてしまうから。実際に聴いてくれている人に会いに行って、初めてこんなにいるんだと感じられるというか。そうすると、歌い方や届け方も変化してくるんです。ツアーの最中ですけど、どこにも行かずに歌っていたときと比べたら、コミュニケーションの取り方や気持ちが変わってきたと思います。

ーファイナルは9月24日、再び日比谷野外大音楽堂でのワンマンライブですが、この日への思い入れを教えてください

ハルカ 去年、野音でフリーライブって話が出たときに、不安もあったんです。もちろん大好きな場所で特別感があるので、普通のライブハウスでやるワンマンとは意味合いが違う部分があるんですが。神聖な場所だというイメージだったので、すごく嬉しい反面「どうしよう」って気持ちも強くて。結果的には、本当にたくさんの人が集まってくれて、そこで見られたのは本当に最高の景色だったんですよ。当日まで何人来るのかわからないまま、開演してステージに上がったら、たくさんのお客さんがそこにいて。私にとって感動的な一瞬だった。そのときに「来年もまた絶対にやる」って決めたんです。でも、次はフリーではなくチケットを買ってもらってやらなきゃいけないし、1年かけてそこまで成長しなくちゃいけない。それを約束したんです。そうなるように47都道府県をライブして回って、また野音に帰ってきますとう意味も込めて”約束の場所”だと考えているんです。去年以上のものを見せなくちゃいけないし、ただのワンマンライブとは全く違う。私たちが1年かけてやってきたことや新しい作品『LOVELESS/ARTLESS』、日本全国の人に逢って感じたこと、全てを9月24日の野音で見て欲しいって気持ちでやっています。何をそこで見せられるのか。去年のあの日から毎日考えています。


[※1] ニューロマンティック…1970年代後半より、ロンドンで興った音楽ジャンル。ニューウェイブ、ポストパンクから派生し、シンセを取り入れた新しいバンドサウンドとして受け入れられた。ルーツにデヴィッド・ボウイなどのグラム・ロックの流れを持ち、インパクトあるビジュアルで表現するのが特徴の1つ。
[※2] ヒューマン・リーグ…テクノポップを代表するバンドの1つ。シンセやシーケンサーを取り入れたサウンドが特徴的。1979年にデビューしており、当時のPVでは化粧を施したジェンダーレスなルックスを見ることができる。