音を鳴らして、からだにジャッジさせた
ー 今作、吉牟田が不在の時期をまたいで作られたと思うけど、どうやって制作を進めていったの?
■村上: 実は全曲、作る工程として軸となるフレーズ1コーラスしか作らずに、余分なアレンジは入れないで、そこから吉牟田含めた全員で一気に詰めていって完成させたんですよ。 最初は全曲分、Aメロとブリッジとサビだけを作って、曲名も速い曲1、速い曲2、ゆっくりの曲1…みたいに超ざっくり付けて。 ちょうどこの前のmurffin night 2017(2月~4月に開催した、テスラ所属レーベルアーティストでの帯同全国ツアー)の鹿児島編ライブで試験明けの吉牟田と合流して、その翌日から地元鹿児島に残ってそのまま合宿に入ったんですよ。 そこで一気に全曲分、元ネタのフレーズから曲として完成するところまで持っていきました。
ー じゃあ吉牟田お休み期間も、時間は有効利用して曲を貯めてたんだね。
■_村上: そうですね、とにかくネタとなるリフは大量に作ってました。
ー その曲になる前の元ネタのフレーズ、エッグマンの事務所でもよくマネージャーが流しながら作業していて横耳で聞いてたんだけど、今こうやって曲になった完成品を聴いてみると、その素材からの曲へ化けた時のアレンジ力が今回特に長けてるな、と思った。
■村上: 吉牟田復帰後初めて4人でスタジオに入ったのが、練習の為じゃなくて曲作りの為だったので、常に一緒にいた時期に練習で入ってたスタジオとは違って、初めてバンドを組んだ時に近い感じのフレッシュな気持ちで、どんどん曲を詰めることができたんですよ。 「あ、これかっこいいね」「これもかっこいい!」みたいな感じでスピード感が凄かったですね。 集中力もあったし、ちょっと時間を経て4人で集まった事で衝動的なインスピレーションもあったし、特に「アテネ」(M1)はアレンジが難航すると思ってたんですけど、これもすぐに出来て自分たち4人が一番驚いてました。 ブランク空いて曲作りの勘が鈍ってるんじゃないかと危惧してたんですけど、逆に衝動で一気に出来ました。
ー その感覚は曲にしっかり反映されてるね。 今作はこれまでで一番フィジカルな感じがするというか、頭で作ったんではなくて、実際にアンプやドラムが鳴ってる状態でセッションした演奏のノリから受けるインスピレーションで作った感じの気持ち良さが全編通してあるよ。 構成にもフレーズにも体でノれるアレンジメントが成されている、というか。
■村上: まさに、合宿のスタジオの勢いそのままで作りました。 曲作りに関しては、PCのDAWソフト(音源編集ソフト)ではかっこいい or かっこわるい、尺が長い or 短いは判断着くんですけどね、気持ちいいかどうかはやっぱり実際に演奏してみないとジャッジできないんですよね。 結局のところ僕らはどんな音楽をやってくべきなのかっていうのを改めて考えたら、”勝手にからだが動く音楽” っていうところに行き着いたんです。 それは実際に鳴らしてみた音でしか判断できないな、と思ったんでPC上での作業を止めて、スタジオまで待ちました。 この1年間はその作業のひたすら繰り返し。 おかげでネタは腐るほど蓄えました(笑)。 時代にはかなり逆行してると思うんですけどね。 でも結局はそれが一番強いな、って僕は信じてます。
ー 選曲としては前作の会場限定盤E.Pから「Like a swallow」と「ミスターサンライズ」の2曲が含まれてるけど、この2曲を選んだ理由は?
■村上: 「Like a swallow」はテスラにとって新しい感覚の曲だったし、次のステップへ進むきっかけとなるような曲なんでマストで入れたかったのと、アルバムを通して今作は新しい感じの曲調のものが多いイメージだったんで、1曲はリフゴリ押し8ビート的な、いわゆる今までのテスラらしい曲を入れたい、という事で「ミスターサンライズ」、この2曲になりました。
ー 今回、8曲っていうのがトータルの尺として絶妙に良いバランスかと。
■村上: これ、フルアルバムとも、ミニアルバムとも謳わずに情報出ししてるんです。 昔の自分だったらミニともフルとも言えない、どっちつかずでカッコつかないものとして納得できなかったと思うんですけど、去年会場限定盤のCDを出した時に、全部自分たちで手作業でパッケージを作って梱包して、シリアルナンバーを入れて、自分たちで直接会場で売るっていうかなりイレギュラーなリリースを経験した事で、 “もうこういう時代に既存のフォーマットに縛られる必要はないな” って思ったんですよね。 ちゃんと聴いた人の思い出になるような作品になるんであれば、余分な自尊心は捨てて、リリースのかたちも尺も、作品の仕上がり重視で作っていっていいよな、って思えたんですよ。 そういう意味で今作は楽曲を並べて聴いた時の感覚で、8曲にしました。
ー これは1、2曲増えただけで全然全体のイメージバランス崩れそうだもんね。 人間の集中力的にも実はこの位が全曲集中して楽しめる長さだし。
■村上: 通常のリリースの捉え方って、10曲以上でフルだと “覚悟の一枚”、ミニだと“自分たちの最新を伝えるアイテム”、っていうものだと思うんですけど、それって曲数できっぱり白黒つけるものでもないですよね。 フルだって最新事情を伝える要素を持つべきだと思うし、ミニだって覚悟と共に出すものであるべきだと思うし。
ー “既存のルールだから” じゃなく、ちゃんとした目的があって定めた形態、曲数、尺、それが一番の正解だよね。
■村上: そう、映画と一緒です。 2~3時間に渡るものもあれば、数分のものもある。
ー 今回はホームのmurffin discsからのリリース。 音源リリースにおいてのレーベルの移籍には何か思いはある?
■村上: 今回murffin discsへの一番の感謝は、自分たちの納得いく音楽になるまで、じっくり時間をかけて作らせてくれた事です。 そのおかげもあってか、これまでの作品の中で一番、メンバーだけじゃなく親身に付き合ってくれるスタッフ側の意見も取り入れられてる作品になってると思います。 例えば『ジョハリの窓』(前作のフルアルバム)は、自分たちでガーッと作ってレコーディングして、リリースして、どちらかと言うとメンバーで完結させてたアルバムだったんですけど、今回はレーベルのスタッフの人たちにラフのフレーズを聴いてもらって、意見もらって、曲にしてからまた音源渡して聴いてもらって、っていうラリーを結構密に出来て、テスラの作品でもあり、テスラチームの作品でもある、ていうチーム感をもってやれた感じがあるんですよ。 これはもちろん “言われたからやらなきゃいけない_…” ていうネガティブなものではなくて、あくまでスタッフから貰ったアイディアも加味して自分の判断力を豊かにした状態で決断していく、っていうチーム力だから、自分の感性とちゃんと共存できる状態でのスタッフとの連携でした。
ー 今回の音源に感じる音楽的な前進感とか、先日4/15の吉牟田復活ライブも含めたここ最近のライブの様子を見ていると、これまでで一番テスラの音楽性としての追い風が吹いてる状態な気がする。 バンド結成時の初期衝動的な爆発力とはまた違った、経験と実力でモノを言わす堅実な追い風ね。 これはやはりメンバーの一時離脱がもたらしたのかな。
■村上: そうですね、よく心折れなかったですよね(笑)。 僕、折れそうなキャラなのに。 ていうか心折れてる暇がなかったんだと思います、きっと。 今となってはですけど、あのタイミングで吉牟田がバンドを離れたのは実はバンドにとって良く働いたと思ってます。 サポート入れてでもやらなきゃいけないんで、もうメンバー全員とにかくバンドを前に進める事に必死になってました。 ライブの誘いがあって、リハやって、ライブする、今までは当たり前のルーティーンとして捉えてたんだと思いますけど、スケジュールが都合つくサポートベーシストがいるか探して、新しい人だったら何度かスタジオ入って、感覚をチューニングする作業があって_… 一回ライブを実現させるのに幾つものハードルがあるんですよね。 もうクリアしていくしかないんで、自分の柄にもなく超前向きでした。 その弊害か何か分からないんですけど、吉牟田が帰ってきてライブが終わったら僕五月病みたいになって気が抜けちゃって(笑)。 新たなスタートなんですけど、吉牟田不在中をやりきったゴール感が同時に強くて「やばい、ここで心をしっかり持たなきゃ…」ってビビってました。 今はもう大丈夫です(笑)。
ー その吉牟田不在時、他のメンバーはどうだったの?
■村上: 實吉( Dr )も飯野(Pf)も全然心折れないでやってくれてましたね、バイタリティー全然変わらなくて。 そこが凄いなと。 役割分担が明確に成されていって、ちゃんと3人で支えあってる形になってました。 僕が基本コミュニケーション能力低い分、初めましてのサポートの人たちをスタジオに迎え入れる時は、曲の説明とか、狙いとかを順序立てて伝えたりするような進行と仕切りは、全部飯野がやって、實吉はおそらく演奏面で一番の功労者ですね。 やっぱりベーシストが毎回変わる訳ですからね、リズム隊として必死に統制を取ってたと思います。 非常に助かりました。
ー 3人それぞれが自分なりのリーダーシップでバンドを引っ張ってくっていう意識が強くなったのかな。
■村上: そうだと思います。 飯野はフロントマン意識が高くなったし、實吉は土台としての責任感みたいなものが強くなりましたね。 實吉に関しては13人どのベーシストが来ても自分が支えなきゃ演奏が崩れる、っていうプレッシャーがあったと思うんですよね。 よく口癖で「ベースに引っ張られてしまった」て言ってましたけど、それこそ13人、手癖もキャラクターも違う人が交代でくる現場で、グルーヴだったりの共通言語が今まで通りは無い中、毎回手綱を持って後ろで構えてなきゃいけない、っていうのは相当大変だったと思います。 でもそのおかげで、今はリズムの安定感が相当高いんですよ。
自分の本質に根差していれば続く。
ー 歌詞について。 “次に進む” 的な意思が全編通して描かれてるな、と思ったんだけど、今作のコンセプトは何かあったの?
■村上: ジョハリの窓を出した時は、”永遠なんてないから、今を大切に生きる” っていうのがテーマだったんですけど、 “永遠なんてないから” って言ってる時点でちょっともう不安要素が入ってますよね。 まだ倒れてないけど、フラフラみたいな(笑)。 ギリギリな感じがあったんですよ。 今回はもう一歩先で、”永遠はあるから、心配しなくて大丈夫だ” っていうのを歌いたくて。 ここまで音楽を続けられてる今なら、こういう事を言ってもいいんじゃないか、と思ったんですよね。 東京に来てから出会ったバンドが結構解散してる中で、まだ僕らはやれていて、4人でずっとやれると思ってたけど吉牟田が離れる事になったり、また戻ってきたり。
いろんなところにいろんな物語があって終わったり変わったりするんだけど、それでも続く物語もある。 一本の木があって、地表では花が咲いたり散ったりするけど、ずっと地面の下では根を張ったままだ、っていうのが大事で、その根の部分を心の中で信じておかなきゃ花は散ったままで咲かないし、信じていればまた循環して花も咲くし生き続ける。 だから事実としては永遠はあるんですよね。 後は心の持ちようというか。 リリースの度に毎回「今回売れなかったら次回ヤバいです」みたいなプレッシャーって、直接的にそういう言葉で言われなくても周囲からありますよね、あれはあれで自分のエンジンを燃やすための燃料として必要だから在るべきなんですけど、あくまでそれは燃料であって、やるべき事は燃料燃やしながら自分の根っこの感覚で音楽を作っていく事。 根っこがちゃんと健全に在り続ければ、ぱっと見で花が枯れてても、また咲くんで大丈夫。 そういう意味での「アテネ」の「最低最高と騒ぎなさんな」っていうフレーズですね。
ー リード曲「アテネ」の名前はどんな由来から?
■村上: これはギリシャ神話に登場する永遠の神アテーナから取りました。 永遠を象徴する名前として、イメージ的には火の鳥的な不老不死のイメージもあったんですけど、単語としては永遠と一緒に何かの始まりを意味するものにもしたいな、と思っていて、アテネってアルファベットでAから始まるし、または地名で言えば人間が集団を成して生活し始めた都市の起源でもある、いろんな始まりを象徴するワードでもあるな、っていうのがあって。
ー 歌詞の場面としては夜明け前位の時間帯が多く出てくるけど、歌詞を書いてる時間帯がこういう時間帯だから?
■村上: 歌詞は僕、歩きながらじゃないと書けなくて、日中に書いてますね。 路地入ってみたり、デパートの中入ってみたり、ラブホ街を通ってみたり、携帯にメモ取りながら延々5、6時間位同じところを歩き続けたりして書いてます。 そういう脳になっちゃってるんですよね、止まってると本当に書けないんですよ。 何でなんでしょうね、歩く時の一定のテンポみたいのが_からだと脳にいい刺激を与えてるんですかね。 理由は分かってないですけど、ここ何年もその方法で書き続けてます。
ー 前はプールに通ってる、って言ってたよね。
■村上: プールは完全に “無” ですね。 無の境地に入れます。
ー でも知らないおじいちゃんに話しかけられて無理やり泳ぎを教えられるんだよね。
■村上: そう、話しかけられるまでは無でいれます(笑)。 あと他にも良いシチュエーションは、朝のガラガラに空いてる電車かな。 立ってると思いつかないんですけど、座ってぽつんとしてると本当色々思いつくんですよね。 ライブで話したい事とかも。 こんな事何の役に立つんだろうなぁ、みたいなアイディアも多いですけどね。
ー 音楽性については、鹿児島で育ったメンバーのバンドである事とか、地元が鹿児島だからが故の影響ってあると思う?
■村上: 音楽性にそれがどう影響してるかは分からないですけど、感受性については最近思う事ありますね。 今東京に住んでてテレビをボーッと見てると、天気予報から何から何まで鹿児島の情報を真っ先に拾おうとしてるんですよね。 あと鹿児島に住んでた時は指宿枕崎線っていう路線の黄色い電車をいつも利用してたんですけど、東京に来て、銀座線とか西武新宿線の黄色い電車を見るとめっちゃ落ち着くんですよ(笑)、地元を思い出して。 そういうちょっとした事なんですけど、東京で育った人とはふるさとが違うっていうのを感じるタイミングがちょこちょこあるんです。 人それぞれ持ってる自分の帰る巣みたいな場所がある訳で。 それを歌ったのが「Like a swallow」(M4)なんですけど、そういう育った環境の違いによって出てくる感覚とか、音楽性とかに個体差が出てくるのは当たり前なんだから、人と違う側面があって当たり前で、それは嘆かないで大事にしていったほうがいいな、って思うようになりました。 その方が世の中おもしろくなると思うし。
ー 個性だよね。
■村上: Czecho No Republicの武井さんとSUPER BEAVERの渋谷君に僕はよく「変だ」って言われるんですよ(笑)。 でも、自分では全く自覚がなくて最初はギャグで言われてると思ってたんですけど、暫く言われ続けてるんで、あれマジなんですよ多分。 それでメンバーに俺ってそんなに変かなって聞いてみても「変わってるって思われるだろうね」っていう回答で(笑)。 でもなんか嬉しいんですよね、あんなに凄い2人に言われてる感じが。 光栄だなぁと思います。
言いたい事は2行に込めて、それ以外は音の響きにこだわる
ー サウンド的には今回かなり音質がクリアだよね、特にギターの音がリッチで心地いい。
■村上: ギターに関しては、吉牟田が離れてから竿もアンプも足元のエフェクター類も、順を追って全部変えていきました。
ー 今作で音に関して特にフォーカスした部分ってある?
■村上: 音の部分で言えば、歌詞が曲とのハマり具合的にどう響くか、っていうところでことばを音感で捉えていくようにしました。 前まではことばのチョイスの部分で深く深く掘り下げていってたんですけど、今回はことばの響きの部分を大切にする方向にもう少し寄せて、フレーズとして響きのいい歌詞を目指しました。 例えば「アテネ」では「I believe you forever」っていう部分の繰り返しを、最後だけ少し変えようかな、とかも思ったんですけど、そういう文面での遊びについ向いてしまう今までの傾向に気づいて、今回は踏みとどまって音として響きのいい歌詞を優先したんです。 歌詞を書いてる時は文面に集中してるんで、どうしてもそこでテクニックを入れたくなるんですけど、曲としての最終形態を見据えたら歌詞も音のパーツのひとつとして存在してくるから、響きの重要性ってやっぱりありますよね。 今は文面でリードする部分っていうのは1曲につき1、2行でいいな、と思ってて、この曲では「それはいつも目に見えないし 手を伸ばせば消えるんだ そっと胸の奥にしまっておいてよ」、ここだけ。 国語のテストとかでよく出る “作者の言いたい事を抜粋” みたいな部分ですよね。 この位短い部分でまとめていいな、っていう歌詞の構成方法の変化が今回はありました。 変に小賢しい事を言って「あいつ凄そう」とか思われたい、的な余計なプライドを全部捨てました(笑)。
ー 開眼してますね。
■村上: 今年の目標は「変な見栄を張らない」事。
ー メロディーラインやリフの面では「私とあなたとこの街のグラビティ」(M5)、「TO GEN KYO」(M6)辺りがかなり新しいところに可能性を広げた感じがしたよ。 「私とあなたとこの街のグラビティ」は歌謡っぽい。
■村上: 歌謡感を完全に狙ってみたのがその曲です。 以前スタッフと話してた時に「テスラのメロディーの良さは歌謡曲感と共通する」みたいな話になった事があって、昭和っぽいメロディーはテスラのアイデンティティーのひとつになるのかもな、と思って作った新曲です。
ー 80年代の声低めの女性アイドル歌手が歌ってもしっくりくる位、狙いにハマってると思う。
■村上: 確かに(笑)。 ちなみに新曲が1, 2, 5, 6曲目です。
ー その4曲がまさに今回突き抜けてるよ 「GLORY GLORY」(M2)なんか超グルーヴィー。
■村上: 「GLORY GLORY」なんかは元々はけっこうオーソドックスな4つ打ちの曲だったんですけど、吉牟田と1年振りのスタジオだった合宿で、気持ち的に初期衝動的な感じで相当ハイになってたんで、勢いでガンガンアイディア出して進めてたんですよ。 飯野に「ピアノ弾かなくていいから」ってギター持たせて弾いてもらって、コードが弾けなくて他の弦も鳴っちゃうんで、弦を1本だけ張ってそれ以外弦を外して弾いてもらったりして。 僕のギターと合わせて初めて2人ギターの曲作っちゃったんですよ。 「ライブでどう再現する? 同期?」とかそういう先の事は考えなかったんですよね。 とにかくかっこいいじゃん!ギター弾いてみなよ!弦1本でいいよ!みたいな。
ー 今回の一番の要点は、その初期衝動だね。
■村上: そうだと思います。 いろいろ感覚がこれまでより研ぎ澄まされたりしてる部分はあるけど、変にこだわらない、難しい歌詞に執着しない、細かいギミックより音鳴らした時のノリ重視、っていう。 だから今回のアルバムならではの要素は、歌詞もアレンジもレコーディングも、全ては1年振りの4人のスタジオ、あそこから始まってますね。 やっぱり自分の直感を信じるしかないですよ。 吉牟田のいない1年も、ちゃんと再点火するきっかけにできてまたスタート切れてよかったです。
ー 「フール フール フール」(M8)、ラストは明るい曲で締めてるね。
■村上: この曲、めっちゃ明るい曲調なんですけど、実は歌詞では死のうとしてる人の事を歌ってるんですよね。 タナトス(死への衝動)的な自殺志願者の歌。 歌詞にある「結末がずっとローテーション」
っていうのは頭を何度も自殺がよぎる事を指してるんですけど、違うぞ、と。 馬鹿げてるから、死のうとしないでくれ、っていう歌です。 このめちゃくちゃ重たいテーマを、このめちゃくちゃ明るいPOPな曲に載せるって事自体もフールフールフール(ばかげてる)って事です。 本当のお前は絶対もっと生きたがってるから、結末をすぐにローテーションさせないで、続編を待て、っていう。 これは僕が医学部に進んでなくても思ってた事だと思うんですけど、自殺だけは本当に減らしたいんですよ。 戦争よりもこの世からなくなって欲しいものです、自殺が。 この事は大々的にはこれまで言ってないですけど、バンドやっていても常にこの事は思ってるんですよ。 ライブする時も毎回、ライブ見てちょっとでも「もう少し生きてみよう」って思ってもらえたらな、って。
ー ライブ前そんな事考えてたのね。
■村上: なんか1回でも死にたいとか考えた事ある奴は全員ライブ来て欲しいですよ(笑)。 スカッとして帰って行ってくれたら本当嬉しい。
ー この後リリースツアーもあるもんね。
■村上: そうです。 東京は代官山UNITでリベンジです。 前回は悔しい部分が多かったので、前回以上に燃えてます。
ー いいね、前のめりで。 ちなみに今回の吉牟田不在期間とリリースを通して、得れたものってどんなもの?
■村上: 13人のベーシストと曲を演奏してきて、みんなそれぞれ個性も音の捉え方も違って、本当にいろんな人がいました。 考え方次第で同じ曲がこんなに変わるのか、っていうくらい。 それを経験して、自分がどれ程狭い考え方の中で生きてきたのかっていう事に気づかされた、っていうのが大きいですかね。 しかもおもしろいのがやっぱりみんなミュージシャンなんで「バンドってこういうものじゃん?」とか顔突き合わせて言わなくても音を出せばわかるんですよね、それぞれの人がバンドにおいて大切にしてるものが。 前に出て煽りまくる人もいれば、ひたすら冷静に弾く人もいたり。 そういう瞬間的に凄く大きな情報量のものを学べるタイミングがこの1年でたくさんあったので、いろんな考え方を理解できるようになったし、自分の考えもいろいろと変化させる事ができるようになった1年かもしれないです。 バンドが続くも終わるも、過酷な状況と捉えるか、ステップアップの為の課題と捉えるかも、最終回を望むかもうちょっと生きるかも、全部自分の考え方次第ですからね。 それが分かった今は、この先もっとやれる事がいろいろあるだろうな、っていう可能性も見えたし、CD出して、ツアーして、フェス出れたら出たい!っていういわゆる普通の欲求以外にも、バンドでやりたい事、やれる事がまだまだあるんじゃないのかな、とも思います。 この4人ならではのやれる事を、価値のある歳の取り方を重ねながら、やっていきたいですね。