―まずは全国ツアーお疲れ様でした。初の武道館ワンマンを含むバンド史上最大規模のツアーでしたね。
黒田黒之介(Gt,Cho 以下…黒):今回のツアーは座席がある会場でのホールツアーだったので、そういう会場だから来ることができた家族連れの方だったり、普段ライブハウスには行きにくいと感じているだろう客層の方も多かったので、そういった方々にもsumikaの音楽を届けることができたというのは実感できたツアーでしたね。
―sumikaのライブはエンターテイメント性が非常に高いと思っていて、今回のようなホールでのライブは想像以上にフィットしていたんじゃないかなと思いました。
片岡片太(Vo,Gt 以下…片):そう言ってもらえるのは嬉しいですね。ライブ制作のチームからは以前からsumikaのライブはホールが合うと思うよ。とは言ってもらっていたんですが、自分たちの主観ではなんとなくの想像しかできていなくて。でも実際やってみて映像を見直してステージが見やすいなとか音も聴きやすいなとか実感する事は多かったです。あとはホールならではの舞台を1から作りあげるというのはすごく面白かったです。細部まで含めて舞台からライブを作り上げることができるので。今回のツアーを経てまだまだやりたいことが思いつきましたし、この経験は大きかったかなと思います。
―そんな大きな経験を経てのsumikaがリリースする今作『ファンファーレ / 春夏秋冬』。劇場アニメ「君の膵臓をたべたい」のオープニングテーマ&主題歌として起用されていますね。この話をいただいた時はどうでしたか?正直驚いたんじゃないですか?
小川貴之(Key,Cho 以下…小):最初信じられなかったですよね(笑)。どういうこと!?って感じでした(笑)。
荒井智之(Dr,Cho 以下…荒):そうなるよね(笑)。
片:ライブの直後に聞いたから本当にフワフワした感じだった気がする。
荒:しかもこのお話が決まってから映画の公開まで1年くらいあったから未来の話という感じもあってしばらくその実感がなかったですね。
小:sumikaというバンドで映画に携わりたいという気持ちはメンバー全員強く持っていたので、実感が湧いてからは本当にありがたいお話だなというのと良い作品を作りたいなというモードに入った感じですね。
―プレッシャーは大きかったんじゃないですか?
片:なかったと言えば嘘になりますね。でも、ただタイアップをいただいて丸投げで制作を進めたというわけではなく、映画の製作チームの方々が0から一緒に作っていきましょうというスタンスでいてくれて、音楽も込みで映像と一緒に同じ速度で並走しましょうと。楽曲制作の前に打ち合わせもできて、オープニングはこういうタイミングでとか、エンディングでは映画を見てこういう着地点にしたいとか、細かいイメージなどの話をした上での制作で、気持ちの良いキャッチボールでしっかり肩をならしてから徐々に完成に向かっていくという形で接してくれたので非常にやりやすい環境でした。文字で見ると「君の膵臓をたべたい」のオープニングテーマ&主題歌というとんでもないプレッシャーがかかる物ではありましたが、こういった経緯があったので自然体で挑むことができたかなとは思います。
―今までも大事にしてきた人と人でのキャッチボールというスタンスは変わらずだったんですね。
片:そうですね。改めてその大事さを知りましたね。今までは音楽に携わる方とのキャッチボールがほとんどだったので共通言語も多かったですが、今回に関してはまた違う分野の方とのキャッチボールだったので抽象的な言葉だとイメージにズレが生まれてしまうので専門用語を使わないように、まずは言葉を交わして人と人として接して心を通わせるということを意識しました。今作を作り終えて本当にやり切れた、映画に対して噓偽りなく、真正面から向き合えたなと思えていて、それはきっとこのコミュニケーションが紡いだ結果なのかなと思います。
―良い空気感で制作を進められたのが伝わりますね。次に今作のタイトルについて聞かせてください。「君の膵臓をたべたい」はタイトルの字面が非常にインパクトが強いもので、それに携わる楽曲のタイトル決めというのはなかなか困難ではなかったですか?
片:うーん。困難だったかと聞かれると答えるのが難しいですが、今回の楽曲に関してはタイトルから決めました。タイトルを決めてそこに向かって進んでいく形。結果的にはそれが良い方向になったかなと思っていて、特に意識はしてなかったですが今こうやって話をして思うのは、もしかしたら映画のタイトルが強いからこそ楽曲もタイトルから決めたほうが良いという流れに自然になったのかもしれないですね。
―なるほど。片太君の中で潜在的な意識があったのかもしれないですね。ここも意識の部分かもしれませんが今作のジャケ写についても聞かせてもらいたいです。女性が青々とした海の前でトランペットを吹こうとしている姿ですが、直近の過去2作品は登場人物が2人いて、今回の映画は2人のメインキャストがいるお話だったので、今回のジャケ写も登場人物が2人いるのかなという勝手な想像をしていたのでちょっと意外でした。個人的な純粋な興味も含めてジャケ写のコンセプトを聞きたいです。
片:今作のテーマが“青に向けて今を叫ぶ”というものだったんですね。この2曲にキャッチコピーをつけるとしたらなにかなと考えたときにたどり着いたアートワークも含めて2曲に共通したテーマ。そのテーマに沿ったジャケ写ですね。主人公を自分に置き換えて考えてほしかったんです。大人になるにつれて青春っていつのことかなって考えたときにやっぱり高校時代とか若かりし頃のイメージが浮かぶことが多いかなと思うんです。映画の中で描かれている2人はまさに僕のイメージする青春の真っただ中。そういう中でジャケ写に2人写っているとその2人の物語になってしまうかなと思ったんです。誰かと誰かの話ではなくあくまで自分を主人公に考えてほしかったという想いがあります。
―今お話がでましたが曲調なども違うこの2曲で共通のテーマというのが少し意外でした。
片:僕たちが今作に於いてどう向き合うかというマインド的な側面が強いテーマですね。この4人でのsumikaの青春感みたいな。僕にとってはバンドを始めた頃、曲作りを初めてした頃を少し思い出すような感覚でした。
小:難しいことを考えずに昔の感覚、熱さを今だったらどう表現できるかなって。詰め込もうと思えばもと詰め込めたとも思うんです。でも今回に関してはそれは違うかなと。あえて詰め込まなかったです。
―すごくシンプルな2曲ですよね。前作『Fiction e.p.』はギミックが多めなイメージでしたが、今回はド直球なイメージ。ここ最近は音色なども増えてきていた中であえてこの4人でのシンプルなsumikaを感じました。
片:バンドを始めた頃の衝動みたいな感じですかね。ストレートで三振を取りにいく的な。昔は変化球なんか知らなかったですからね。初期sumikaではそういうアプローチの楽曲もありますが、sumikaというバンドを5年続けてきた今だからこそのストレート。5年かけてなにを築き上げてきたかどうか。ある種の原点回帰と言えるかもしれないですね。
―その感覚を今のこの4人で味わえるのってすごく幸せなことですよね。片太くんと荒井さんはもうかなり長い年月一緒にバンドをやっていて、そこに黒ちゃんと小川くんが順番に加わって。その4人でこうやってバンド活動をやれている。間違いなく青春と呼べるものなんじゃないかなと。
片:精神性ですよね。自分たちが青春だと思い続ける限りは一生青春が続くんじゃないかと。
―収録曲についても詳しく伺っていきたいと思います。まずは「ファンファーレ」。正にオープニングテーマど真ん中という印象を持ちました。疾走感や、1サビ後にAメロがなくてBメロにいくという流れ、全体で3分という短さとか。曲の終わり方もすごく潔いですよね。もう少しアウトロがあっても不自然ではないような気もしました。
片:映画で使われている長さと実際の曲は長さが違っていて、映画では1番までなんですよ。そこから先は言うなれば自由。なので1番終わりまでは映画のオープニングテーマである「ファンファーレ」。その先はsumikaの「ファンファーレ」をどうエンディングまで持っていくかということをイメージしました。無駄なものをすべてそぎ落として伝えたいものに最短距離でsumikaとしての答えを出すという感覚でした。結果としてこうやってシンプルにまとまったというのは今のsumikaのモードがそういうことなんだと思います。やりたいことをやって、楽しいなと思うことで笑いあって、感動できるもので感動して。すごくシンプルなマインドになっているからこそこういう曲にできたのかなと。
―そして先日この曲のMVが解禁されましたね。もう正に夏!青ですね。
黒:実は青いペンキで塗ったんです。
―あれは元々そういう物じゃなかったんですね。驚きです。やはり今作に於いては“青”というのが大きなキーワードなんですね。
片:プールは青で、空も海ももちろん青で。青だらけでしたね。実は今回のMVを制作してくれた大久保監督のテーマカラーが“青”なんですよ。初めてお会いした時からそれはおっしゃっていて、最初の打ち合わせの時も全身青でコーディネーターしていたんです。監督にテーマは青ですと伝えたら、よしきた!って感じで(笑)。
小:すごい喜んでくれたよね。
片:満を持して感が半端なかったです。
―それはその監督に任せたいと思いますよね。撮影はどうでしたか?
片:どうでしたかと聞かれたらすごく過酷でした(笑)。
~一同爆笑~
片:ありがたいことに快晴で、しかも海の近くだったので浜風が気持ち良いねなんて初めは言っていたんですが、撮影が進むにつれてこの曲に対する熱さがどんどん増していって。嘘偽りのない温度、細かくカット割りをしてどうこうというよりは、曲が持っている熱量と同じだけ体温が上昇していったのでとても気持ち良い撮影ではあったのですが体力的にはなかなか大変でしたね。それこそプールで1日泳いだような全身の心地良い疲労感。
―それも青春感ありますね。もう1曲の収録曲、「春夏秋冬」についても聞かせていただこうと思います。作曲がsumika名義になっているのは初では?
片:初ですね。最初デモを僕が作って一度みんなに聴かせたんですけど、正直自分の中でしっくりきていない部分があって、そのあとすぐに2稿を作って聴いてもらって。それでもピンポイントでサビの部分がしっくりきていなくて。曲の一番大事な部分ともいえるサビの部分。そこからサビの部分を何回もいろんなパターンを作って。歌詞の流れが悪いかもと思ってバラバラにして組み立てたりとか。ずっと一人でその作業をしていたんですけど、やり続けていたら正解がわからなくなってしまって。
―迷宮入りしてしまったんですね。
片:オリジナルサウンドトラックのほうに収録される「秘密(movie ver.)」という挿入歌も含めて今回制作した3曲の中でこの曲が一番最後に取り掛かったんです。「ファンファーレ」と「秘密(movie ver.)」はこれ以上の物はできないと自信を持てる曲ができていただけに、この曲でもそういう自信を持ちたくて。一番大事ともいえるエンディングで流れる曲のサビに対して作った本人がしっくりきていないというのはあり得ないだろうと。ここでも原点回帰という言葉がふと頭に思い浮かんで。今のsumikaとしてこの曲を仕上げるのが正解になるんじゃないかって思えたんですよ。時期を間違えたらただの甘えになってしまうんですが、今の4人だったらそうはならないという確信があったので。そこでみんなでスタジオに入ってあーでもないこーでもないと言いながら思い浮かんだフレーズをその場で録ってそれを聴いてまた練り直してを繰り返して。相当な数作ったよね。
小:10個以上作ったと思います。
―相当な難産だったんですね。
片:まぁでも今こうやって振り返ってみるとなるべくしてなった流れなのかなと思います。元々3人で始まったバンドで、スタッフチームが増えて、小川君が加入してとか、今まで変化はいろいろあって、正直なところ今まで悪い意味で安定しないバンドだったんですが、でも今ようやくこの4人、このスタッフチームでsumikaだなって思える状態になったから、こうやって改めてsumikaというバンドで作曲をしてこの作品をリリースできることはある意味再スタート的な側面もあるかなと思います。
―そんな楽曲のタイトルが「春夏秋冬」ってすごくグッときますね。巡り巡って今があるわけですから。
片:春夏秋冬って4つですしね。
―sumikaというバンドになって春夏秋冬を何回か巡って5年経って今こうやって良い形になっているというのはバンドのストーリーとしてドラマチックですよね。しかも片太君は以前から夜の次の朝、冬の次の春など、次を示すということを大事にしていると言っていました。だから今回この「春夏秋冬」
という曲は僕の中では遂にsumikaがこのテーマで曲を書いたんだなって思いました。全てが繋がっているような感覚です。
片:ありがとうございます。この映画では大切な人がいなくなる悲しさを提示したいのではなく、一人の人間が成長して次に旅立っていくことを提示したいんだというのを映画製作チームの方がおっしゃっていたので、それってsumikaが提示したいものとリンクしているんですよ。作品が導いてくれた一つの答えですね。
―先日映画も観させてもらったのですが、この曲がエンディングで流れて、素人のような感想にはなってしまうのですが純粋にすげー!って思ってしまいました。すごくしっくりきました。
片:僕らも同じですよ(笑)。作品との掛け算の答えって途中では答えがでないんですよ。完成してみないとわからない。その答えようやく目で見て感じることができたので、すげー!って思いました。
黒:見終わった瞬間みんなで抱き合いましたし。
―すごい掛け算が成立しましたよね。
荒:普段のリリースだと楽曲制作が終了した段階で完成なんですが、あくまでそれは楽曲の完成なだけで、今回に関しては映像と合わさって初めて完成なので、映画を観てようやく実感ができました。本当に感慨深かったです。ここまで一つの作品に思い入れが持てることって当たり前ではないと思うし、この経験ができたことはすごく幸せですね。
片:これだけ充実感もあって、後悔が一つもないことってなかなかないと思います。同じ速度で並走してキャッチボールを重ねて。一番良いコミュニケーションでやれたからでしょうね。ただ実は制作途中で少し悩んだことがあったんですよ。今作を“sumika”としてやりきるのか、それとも“君の膵臓をたべたい”としてやりきるのか。それによって表現は確実に変わるから答えを一つにしておきたかったんですよね。答えとしては“君の膵臓をたべたい”の「ファンファーレ」であり、「春夏秋冬」であり、「秘密(movie ver.)」であると。その答えがだせたからこそ映像との掛け算を見たときにあれだけ感動出来たのかなと思います。
―その決断はなかなか大変ではなかったですか?
片:黒ちゃんの一言が大きかったんです。その作品の為、掛け算をする相手の為を全力で考えて向き合うのがsumikaらしさなんじゃないかと。
荒:そこでグイっと舵が動いたよね。
片:本当にそうだなって思いました。誰かとの掛け算を楽しめるバンドがsumikaなんだと。小:そこに喜びがありますからね。
―sumikaの住処がどんどん大きくなってますね。ついに音楽家以外も住めるようになったわけで。
片:そろそろ同じ場所だけでとどまるのも違うかなって思ってきました。
―別荘ですか?(笑)
片:移動式住居とかキャンピングカーとか(笑)。まだなにが答えかはわかっていないですが、今回の制作がバンドの可能性を広げてくれたのは間違いないですね。
―もうsumikaはなんでもできちゃいそうですね。どんなものと掛け算をしてもsumika色がちゃんと出せそう。あと今作の収録曲ではないですがオリジナルサウンドトラックに収録される「秘密(movie ver.)」についても聞かせてください。この曲は小川君が作曲ですね。
小:これもほかの2曲と同様に映画製作チームと打ち合わせを重ねて、みなさんの意志、イメージ、ビジョンを知ることができたので一気に進めた感じでした。あとは絵コンテを見せてもらったのも大きかったですね。実物を見るとやはり具体的になりますし。熱量とか。
―非常に大事なシーンで流れる曲ですよね。なかなかのプレッシャーはあったんじゃないかなと思いました。
小:そうですね、、。映画のシーンに合わせて曲を作るというのが元々夢の一つだったので、もちろんプレッシャーはありましたが、楽しみながらできました。レコーディングが終わって楽曲が完成した時より映像と合わさった時の感動は言葉にできなかったですね。感謝しかないです。
―映像とsumikaの楽曲ってマッチングがすごく良いんだと思います。以前の楽曲とかでも曲を聴いて画が目に浮かぶことがあったので。
片:それはすごく嬉しいですね。僕は松本隆さんの歌詞がすごく好きで、松本さんの歌詞って必ず画が浮かぶんですよ。映像喚起力のある歌詞。それ良いというが僕のDNAには多少なりとも刻まれているのかもしれません。この曲の歌詞に関しては映像とのリンクはもちろんですが、尚且つストーリーをなぞるだけの歌詞ではなく、主人公の言葉にならなかった感情に吹き出しをつけて表現しました。
―“秘密”というワードがでてくるわけではないですもんね。
片:sumikaなりのフィルターを通すことが掛け算ですからね。
小:歌詞がハマった時の化学反応がすごかったんです。
黒:鳥肌モノだったよね。
片:小川君から届いた曲の熱量がすごくて熱々のバトンを受け取ったのでこれで良い歌詞を書けなかったらクリエーターとして終わりだなと。良い意味でとてつもないプレッシャーでした。
―ここでは片太君と小川君の掛け算があったんですね。sumikaの音楽はコミュニケーションによる掛け算の賜物だということが改めて今回のインタビューで感じることができました。ありがとうございます。これからも楽しみにしています。