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sumika interview
- SPECIAL -

sumika interview

sumikaから音楽という魔法が届いた。聴いた瞬間に包み込まれる世界観。音楽の可能性はまだまだこんなにも広がっているんだと確信できる感覚。こんな感覚になれるCDにはそうそう出会えることはない。恐ろしいまでの進化を続けるsumikaのメインコンポーザーを務める片岡健太ロングインタビュー。

Talking Partner : TATSUKI

-今作の“SALLY e.p”ですが、まずはタイトル意味合いから聞かせてもらいたいです。

片岡健太(Vo,Gt 以下…片岡):まずは女性の名前という意味合いですね。アニメの「魔法使いサリー」も意味としては入っていますし、あとは外国の友達に聞いたら、「遠足」とか「反撃」とかっていう意味もあるらしくて。一つの単語でいろいろ意味を持つ英語の自由さも活かしたいなと思ったし、なにより字面がすごく気に入っていて。

-本誌の連載でも実は事前に記載していましたよね?

片岡:おっ!気付きましたか?こっそりヒント出していたんですよ。

-原稿を読んだ時から気にはなっていたんですよ。この言葉は何だろうなって。9月号と10月号の連載にこの言葉が載っていたんですが、その段階でこのタイトルは決まっていたということですか?

片岡:まだレコーディングも終わっていないタイミングだったんですが、個人的にはこのタイトルでいきたいなという気持ちは持っていましたね。でも頭の中だけでのイメージだったので、実際に印刷された字面として見てみたいなと思って、ひっそりと連載の原稿に忍ばせてみたんです。そうして見てみたら、やっぱりこの言葉いいなって再確認して、このタイトルに決めました。

-事前にこうやって作品タイトルのイメージがあるというのが珍しい印象です。

片岡:普段はあまりこういうことないんですけどね。連載で事前に字面を見ることができる機会があったので、決められましたね。ただ、こうやって文章にしてみて自分の気持ちを整理することができて、気付くことってたくさんあるんです。だからこうやって毎月連載という形で文章を書く機会がすごくありがたくて。こういうインタビューでもインタビュアーさんと対話することで気付くこととか、自分ってこういう気持ちでこの曲書いていたんだなって改めて思うこととか多いですよ。

-そんな今作の収録曲について聞かせていただきたいです。まずは1曲目の『MAGIC』。

片岡:この曲に関してはわかりやすくタイトル通りにやってみようというところからスタートしてますね。前作でストリングスを初めて入れてみて、自分の頭の中で鳴っている音を忠実に再現できる気持ちよさというのも味わいましたし、この曲では在日ファンクにホーンセクションを、山口寛雄さんにベースをお願いしました。この曲に魔法をかけるにあたってこの2つのセクションは絶対に欠かせないなと思って。

-ホーンとベースやばいですよね。特に僕はベースの存在感に思わず笑っちゃいました。

片岡:その感覚わかります。僕らもレコーディングの時にやばすぎて笑ってしまいました。圧倒的な存在感はあって、めちゃめちゃ攻めてるんですけど、歌の邪魔にはならなくて。しかも事前にリハーサルとかやっていないんですよ。レコーディングスタジオでドラムとピアノと一緒に録音して、何回かそれでやったんですけど、毎回違うフレーズを弾いてて。しかもどれも最高に良くて。なんかもうベースという楽器の概念をガラリと変えられましたよ。そしてそのベースのあとにホーンセクションをレコーディングしたのですが、これまた最高で。寛雄さんのベースによってレベルを上げたこの曲のレベルを、さらにグンっと持ち上げてくれて。こんなに幸せなレコーディングは今までなかったかもしれませんね。一音楽人として相当な刺激でした。10年以上音楽やってきたけど、まだまだ知らないこともたくさんあるし、まだまだ探求できる音楽って本当に楽しいなって改めて思えましたね。在日ファンクも山口寛雄さんもこの曲にとんでもない魔法をかけてくれましたし、自分の頭の中で鳴っている音を忠実に再現するどころか、それを遥かに超える音になりました。このレコーディングという一瞬の夢のような出来事をこうやってパッケージできたということが魔法にも似ているなと。

-まさにタイトル通りの楽曲ですね。

片岡:『MAGIC』という曲名にするのが仮段階からずっと決まっていたので、無意識に「MAGIC」に近づいていったし、全員がそれぞれ思う「MAGIC」を余すことなく表現してくれたらとんでもない「MAGIC」が完成したんです。これがRPGゲームだったら、とんでもない最強の魔法ですよ(笑)。先程もお話ししましたが、頭の中のイメージを字にしたり声に出したりすることって、本当に大事なんだなって思いました。このタイトルを事前に共有できていなかったら、ここまでの仕上がりにならなかったと思うんですよ。そんなことにも気付かされた楽曲でした。

-個人的に最初と最後の部分の歌詞がほとんど一緒なのに、最後の【今】と【色】という部分だけ違うところが気にいってます。

片岡:曲の最初は「今を変える」、曲の最後は「色を変える」という歌詞で、スタートラインとゴールラインを作っていて、スタートとゴールで、さあなにが変わったというところで一番わかりやすいのが「色」かなと。使い古された表現かもしれないのですが、モノクロなものに色が付くという表現が一番しっくりきました。

-この曲を聴いた時に色が付くという表現にすごく共感しました。片岡君としてはこの曲は何色ですか?

片岡:【金】ですね。

-わかります!僕もそのイメージです。

片岡:そこくらいまでいかないと、モノクロなものに色って付けられないかなと。派手派手にギラギラに。「MAGIC」というタイトルにはそのくらいじゃないと釣り合わないですしね。

-曲が始まった瞬間にブワっと景色が変わるような印象でした。

片岡:今作の1曲目、1音目から勝負をかけたい、その瞬間から魔法をかけたいという気持ちがあって、曲の始まりもすごくこだわっています。マスタリングと呼ばれる作業で、CDを読み込んで再生ボタンを押してから何秒後から曲が始まるかを決められるのですが、物理的な限界ギリギリ手前の最速タイミングから再生が始まるようになっているんです。クラッカーみたいな、「パッ」という擬音語で始めたのもこだわりで、そこになにか複雑な意味を持つ言葉や説明をもってくるのではなく、「パッ」は「パッ」でしかないし、「グッ」は「グッ」でしかなくて、聴いた瞬間頭で言葉の意味がイメージできるようにしたくて。音でそれが伝わるというのが音楽という伝達手段の面白さかなと。

-そんな曲で始まって次の曲は『坂道、白を告げて』。告白という言葉をこの表現ができる片岡健太という作詞家のセンスは素晴らしいと思いました。

片岡:この曲は『MAGIC』と真逆でマスタリングをやっている最中にタイトルを決めたんですよ。レコーディングは終わっていたので、もちろん歌詞とかは完成していたのですが、改めてこの曲の主人公はなにを伝えたいのかなと考えたときに、人に好意を伝える行為ってまっさらな気持ちを相手と真正面から向き合って言葉を放つことかなと思って。それってなにかごちゃごちゃと色が付いているものではなく、限りなく白に近い状態なのかなと。そういう時って頭の中真っ白にもなるし。告白って略語で言うと「告る」とか言いますけど、本当は白を告げるのが意味としては正しいんじゃないかなって。告げるということが取り上げられているけど、実は白を告げるから告白なんだろなと思えた時にこのタイトルが思いつきました。こんなこと考えたこともなかったけど、日本語って美しいなってハッとしましたね。

-仮タイトルとかはあったんですか?

片岡:歌詞にも出てきますが『耳をすませば』ですね。

-11月号のeggmanの連載では映画“耳をすませば”について書いていましたよね。

片岡:よく読んでますね(笑)。実はいろいろ伏線張ってます。僕自身小説や漫画を読んで、いろんな点が線になる感覚がすごく好きで。連載を読んでくれる方々にもそんな感覚を味わってもらえたら嬉しいですね。あの映画に出てくる坂道を上って朝日を見るシーンがすごく好きで、映画では描かれていないですが、坂道を上ったときと下るときの感情って明らかに変化が生まれていると思うんですよ。なんか坂道って面白いなって思って。シンプルに『白を告げて』というタイトル案もあったんですけど、「坂道」というのがこの曲において重要なファクターだったので、そこは残してこのタイトルになりましたね。

-この曲を聴いた瞬間、そういったアニメーションでのイメージが浮かびました。

片岡:この曲はギターの黒田が作曲しているのですが、アニメのオープニングみたいなイメージというのは事前に聞いていたので、そういった要素はあるかもしれないですね。それを踏まえて、僕の中でこの曲に合うアニメーションが“耳をすませば”という映画でした。

-黒田君の曲と片岡君の歌詞が絶妙にマッチしていますね。個人的に告白する相手を「左」というあまり人を表現するときには用いない言葉で、この相手を表現したところにこの歌詞の面白さを感じました。

片岡:この曲は告白して、それが成功するというストーリーを描いた歌詞なんですが、曲のスタート段階ではまだ始まっていない二人の様子として少し無機質というか他人行儀な表現にしたかったという意図があります。俯瞰して二人を見ているような。

-その俯瞰的な視点があったからそれがカメラワークのように感じて、アニメーションのイメージが湧いたのかもしれません。

片岡:二人の主観とその二人を見る俯瞰的な客観という視点が混在する曲ですね。先ほども話した「坂道」というこの曲においての重要なファクターを表現するにはこの俯瞰が欠かせなくて。

-そのセンスに脱帽します。そして3曲目に続くのは『まいった』。今まで僕が持っていたsumikaのイメージとは少し離れた楽曲だなと感じました。

片岡:1曲目の『MAGIC』は聴いてくれるみんなのクラップとかレスポンスがあって成立する曲だなと思うんですが、それと違って、こういうバラード曲は自分たちが歌い始めて、歌い終わって、“「」”を付けるまでが1曲という感覚はあるんですが、あまり今までこの“「」”を付けるというがなくて。この曲は休養明けに初めて書いた曲なんですが、休養中ってやはり1人だし、1人でいるからこそ、この“「」”を付ける楽曲ができたかなと。声も全然張っていないし、sumika史上1番キーが低い楽曲で、そういった意味でも今までのイメージとは少し離れているとは思います。

-しかも片岡君の歌詞に女々しいイメージがあまりなかったので、そこも意外でした。

片岡:この曲は格好つけるわけでもなく、純粋に1人の人間として、片岡健太という人間の内面・心の心情がすごく表れていると思います。誰かに見せるために整えたわけでもない日記を公開しているような感覚ですね。1番恥ずかしいです(笑)。

-ですよね(笑)。でも休養中で1人だったからこそ完成した楽曲なわけですね。

片岡:ソロでやろうかなと思っていた曲でしたからね。sumikaでやるとか、ライブでやるとか、CDに入れるためにということで作った曲でもないから、良い意味ですごく狭い世界観の楽曲ですね。主人公の主観という狭い世界観だからこそ“「」”を多用していて、今までこんなに“「」”を歌詞で使ったことはなかったと思いますね。

-そして4曲目はガラリと変わって温かみが溢れる『オレンジ』。

片岡:ユニクロのキャンペーンソングとして書き下ろしをさせてもらった楽曲で、今言ってくれたように“温かみ”というのがテーマにあったので、僕の中で温かみを感じることって何だろうなと考えたときに、まずsumikaが思い浮かんだんですよね。バンドが僕にとって大事な場所で、始まる場所だし、帰る場所なんですよ。スタートがあって、ゴールがある。それが同じ場所ってこれほど幸せなことってないなと。

-そこで“ただいま”、“おかえり”、“いってきます”、“いってらっしゃい”などの言葉がでてくるんですね。

片岡:sumikaが住処であって、ホームなんですよね。そういう場所が僕にとって1番温かくて。今回いただいたテーマにピッタリだなと思いました。この曲を聴いてくれる方々にもそれぞれにとっての温かみに置き換えて聴いてもらえたら嬉しいですね。

-今回の楽曲のようにテーマがあって曲を書くというのはあまりない経験でしたか?

片岡:sumikaとしてはこうやって書き下ろしという形は初めてですね。今回衣食住の衣をみなさんにかなり近い距離で寄り添っている企業さんとのお仕事だったので、みなさんの生活の一部に慣れたような感覚もありましたし、様々な貴重な経験をさせてもらえて、バンドとしてさらに成長できたと思います。しかもこうやってテーマがあると1曲目の『MAGIC』のように、みんなでそこに向かって進んでいけるので、制作はやりやすかったです。

-音楽って本当に面白いですよね。聴覚なのに温度も感じることができる。

片岡:聴覚はもちろんですが、『オレンジ』というタイトルだったり歌詞だったり視覚によるところも強いですよね。そうやって聴いてくれた方に温度を感じてもらえる楽曲に仕上がってよかったです。イメージするって本当に大事ですね。

-今作1枚4曲を通して濃密な1つの物語を見たような印象を受けました。

片岡:今作はコンセプトCDだったのかなと思っていて、4曲とも夜みたいなイメージで、そこに統一性があるというところでそういう印象になったのかもしれないですね。今までは多種多様なバラエティに富んだ楽曲を収録していて、楽曲を並べてそれに対してCDのタイトルを決めていたのですが、今作は“SALLY”というところに向かって全曲進んでいけて、しかも今回制作期間が短い中で瞬発力を出せたのはそういった部分が相当大きかったと思っています。

-そして初回盤にはTHE YELLOW MOKEYの『TACTICS』のカバーが収録されていて、ド世代の僕としては非常に興味深い1曲でした。このカバーをやるに至った経緯を聞かせてもらえますか?

片岡:ドラムの荒井(智之)と昔からトリビュートアルバムに参加するなら絶対にTHE YELLOW MOKEYで、楽曲は『TACTICS』だよね。というのを話していたんですけど、とある打ち上げでTHE YELLOW MOKEYの担当の方とお話しできる機会があって、トリビュートアルバム制作企画の話が実は立ち上がっていて、担当楽曲も徐々に決まり始めているというのを聞いたんですね。『TACTICS』をsumikaにやらせてほしいとその場で交渉して、やらせてもらえることになりました。これもある種MAGICですよ。言ってみるもんですね(笑)。

-実際カバーしてみてどうでしたか?

片岡:カバーとコピーを履き違えたくなくて、カバーというのはその楽曲を壊して再構築することなんですよ。で、『TACTICS』を壊そうと思ったんですけど、相当頑丈で。カバーしたいと言ってみたもののなかなか崩せなくて。改めてTHE YELLOW MOKEYの楽曲の素晴らしさ、難しさを知ることができたし、良い経験ができました。元々THE YELLOW MOKEYを知っている人はもちろんですが、これを聴いて僕らのルーツを知ってくれる方がいたらそれも嬉しいですね。こうやって世代を超えて楽しめることが音楽の一つの楽しみ方だと思うので。

-ぜひ初回盤をゲットして聴いてもらいたいですね。CDのこととは離れてしまいますが、今年の大きなトピックとして、以前からsumikaの目標の一つと言っていたROCK IN JAPAN FESTIVALに初出演したときのお話も聞かせてもらいたいです。

片岡:今言ってくださったようにsumikaを立ち上げたときのメンバー個々の目標の中で僕はROCK IN JAPAN FESTIVALに出ると言っていたんですよ。今まで何回も見に行ったフェスなので、自分の中でいろいろな歴史があって、今年遂に出演することができて、本当に言葉にならない気持ちでした。目の前に広がっている光景を見て今までやってきたことが間違ってなかったんだなって自分自身を肯定することができたかなと。とにかく鳥肌が止まらなくて、しかもフラッシュバックの嵐で。不思議な感覚に包まれて良い意味でライブというものにどっぷり浸かることができましたね。もう2度と出来ないライブでした。でも目標が叶ったとはいえ、スタートとしてゴールテープを切ることができたらからこそ次の目標もできたし、来年出演できたらもっと大きいステージに行きたいし、最終的にはGLASS STAGEに行きたいです。スタートしてゴールして、またスタートしてゴールしてというのを繰り返してこれからの音楽人生も歩んでいきたいですね。

-そんな目標も叶った今年2016年を振り返ってみてどうでしたか?

片岡:常に足を動かし続けて、考えるために立ち止まらず歩きながら考えて、言葉にして、行動にして動き続けた結果、出会いがとにかく多かったです。言葉にすること、行動することの大事さを知ることができましたね。あとはこうも年始と年末で環境も状況も違う1年ってあるんだなと驚いているのが正直なところです。全く別物ですね。休養明けのライブからまだ1年ちょっとですもん。音楽人生で一番変化があった2016年だと思います。振り返っても振り返りきれないくらい、いろんなことがありすぎて。これって今年のことだったっけ?という感覚ですね。こんなに濃密な1年を経て、1年でこれだけのことができるなら来年2017年という1年は本当に楽しみでしかないですね。

-今後のsumikaに期待しかしていません(笑)。今日はありがとうございました。

片岡:今年もお世話になりました。来年もよろしくお願いします。