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the quiet room interview
- SPECIAL -

the quiet room interview

新体制の3人編成となり、サポートドラマーを迎えて初となる新譜『White』のリリース。 体制によって補ったり形を変えたり、バンドとしての各メンバーの役割は変わっていくもの。 リアルタイムな環境に対して反応する各メンバーのリアルなアクションとアイディアで出来上がった今作は、聞いてみて驚くほどの過去最高跳躍度。 ボーカルのクワルーらしさは軸に残しつつも、他の楽曲要素はいろんな壁を飛び越えて、自由に広く手法を変えて、各楽曲の良さを立体的に具現化している。 急にバンドの楽曲レベルが上がるタイミング、そういう時には、目には見えない心の覚醒が付き物だ。 語り口もどこかクレバーになった印象のあるフロントマンの菊池遼に話を聞いた。

Interview & Text : 鞘師 至

より広く捉える事。

ー 今回、久々のリリースになりましたね。

■菊池遼(以下: K): 何だかんだ11ヶ月、約1年振りですね。 その間にバンドの体制が変わったり、色々ありまして…笑 時間かかっちゃったんですけど、ようやく完成しました。

ー そのメンバーの体制が変わったっていう点、今回アルバムを作るにあたって影響ってありました?

■K: もちろんありましたね。 作詞作曲は僕がやってますけど、それぞれギター、ベース、ドラムのフレーズ、アレンジは各メンバーが担当して曲を作っていってたんで、ドラムがいなくなった事で、ドラムに関してのアイディアが他のメンバーから出てくるようになった、っていうのが大きいですね。 成長できたところ、というか。 「パレードは終わりさ」(M1)では元・赤色のグリッターのクラカズくんが叩いてくれてて、それ以外は今メインでサポートしてくれてる古田くんが叩いてくれてるんですけど、それぞれいい味出してくれてて、ドラムに関してはかなりいい感じに新しい部分と、これまでっぽい部分を作れたと思います。 

ー 確かにプレイヤーが変わった分、ビートの癖が新しくて新体制をドラムでも感じましたね。

 

■K: そうなんですよね、古田くんに関しては、手数が多い部分とかは前のドラマーと近しいところでもあるし、逆に新しい刺激もあって、一緒に作ってて楽しかったですね。

ー 今作はそのドラムの質感のアップデートもですけど、楽曲のフレーズ、アレンジの幅がこれまでで一番広がったアルバムだと思ったんですけど、これは何かきっかけがあっての事だったんですか?

■K: これはピアノの音を入れたことで始まった広がりですね。 今までは4人で出せるバンドサウンドっていうのにこだわってて、ボーカル、ギター、ベース、ドラムの音で4ピースバンドのやれる限界までやってみよう、っていうのがthe quiet roomのテーマにあったんで、結構音数が多いというか、音符が詰まってる感じの楽曲が多かったんですよ。 足し算で作曲してる感じ。 でも今回メンバー編成が今までの4ピースから変わったタイミングで、今までの作曲のテーマも一旦変えてみたくなったんですよ。 3人になったからこそできることってなんだろう?って考えた時に、サポートドラマーだからできることとか、他の楽器の音を含めた表現とかを積極的にやってみよう、っていうのが今回のポイントでした。 正直、前作までで、これまでの4ピースバンドとしての僕らの音楽っていうのはやりきった感覚があったんで、今回のタイミングで実際こういう音楽的なチャレンジをできたのがすごくよかったですね。 前作の時にもピアノを入れたりするアイディアは出てたんですけど、やっぱり4人で演奏できる範囲内での楽曲、っていうのに強いこだわりがあったんで、導入するまでに至らなかったんですよ。 だから作詞作曲者が変わってなくてもやっぱりメンバー編成が変わることっていうのが大きく音に出てきますね。 今回はそれが積極的に出せたのが一番の成功だと思ってます。

ー 音質も格段に良くなった気が。

■K: そうですね、レコーディングエンジニアが前作から変わったんですけど、今作は一緒に作るのが2回目っていうのがあって、より深くコミュニケーションをとりながら進められたっていうのが音質に繋がってると思います。 あとは今回僕がエレキギターをあんまり弾いてないっていうのも大きいですね。 その分スッキリした楽曲になってて。 

ー アコースティックギターの音が結構ずっと鳴ってますよね。 一曲目からなんという爽やかさ… と思いました(笑)。

 

■K: 「パレードは終わりさ」では一回もエレキギター弾かなかったですね。 4ピースで常にエレキのバッキングギターが鳴ってる上にリードもエレキで鳴ってて、音圧の迫力でバーンッと押す感じ、これはもうある程度やったんで、今回はそうじゃない鳴り方の曲をやろうと思って。 総合的にクリアな音質になった感じはありますね。

ー 楽曲の雰囲気もそういう初期衝動っぽいものからどんどん変化していってますね。 青春っぽい爽やかさから、大人っぽいグッドミュージックになっていってる感じが。

■K: そうだったら嬉しいですね。 

ー 今までは、中性的な世界観の歌詞とか、菊池さんのアンチな性格とか(笑)、そういう歌から来るイメージがこのバンドらしさになってる感じがありましたけど、今回は純粋に音楽を楽しんで作ってる感じというか、”音楽性が高い” という事にフォーカスしてやりがいを感じながら作っていってる気持ちの部分が曲からにじみ出てるような感じがしました。 これまでらしさを貫く事と、新しいものに挑戦する事、これのバランスって毎回課題になってくると思うんですけど、今回はどうでした?

■K: 挑戦していこうっていう気持ちはやっぱり今回はこれまで以上に強くて、「パレードは終わりさ」とか「夜中の電話」(M4)は特にそういう気持ちが出てる曲だと思うんですけど、逆に「かずかぞえ」(M2)では、今までみたいな皮肉を込めたフレーズ、っていうのを突き詰めてやってたり。 そういう意味ではどっちもできて満足感あるアルバムになりましたね。 ちなみにこの曲、一人称が全部「わたし」なんですよ。 僕、家では女兄弟の中で育って、学校でも元女子校の共学で女子率高い中で学生生活過ごしたり、女性の社会の中で育ってきたこともあって、女性目線な歌詞がこれまでにもよくあるんですけど、今の時代ってジェンダーレスって言われてたりもするじゃないですか、性別関係なく自分なりの解釈の上で、一人称が俺でもわたしでも通用するようなものを書いていきたいっていう気持ちもあって。 今回のアルバムではそういう挑戦もできて、今までの自分達らしい部分もさらに一皮剥けた状態で魅せられて、っていうのはできたと思うんですよ。 

ー 自分の望むイメージの音楽が作れるようになっていってる、って事なんですかね。 

■K : 4ピースのギターロック!っていうこだわりがあんまりなくなってきたのは事実ですね。 お茶の間に音楽を届けられるような国民的なバンドになるっていうのを最終目標としてるんですけど、実際そうなってるバンドってやっぱりポップな曲も、バラードも、音楽性高い曲も、なんでもできるじゃないですか。 ロックバンドの僕らにとっては、そういういろんな色の曲をやる事って結構勇気のいる事なんんですけど、それを臆病にならずにできるようになってきた、っていう感覚はあります。 これまでもやってはいたし、いろんな側面を見せれるバンドになりたいっていう思いはあったんですけど、今回は自然と自信を持ってできるようになった、っていう感じですかね。 それが音のクリアさとかに出てるんだろうなと思います。

ー 自信かぁ、確かにそれが一番音に出てるかもしれないですね。 信頼感、っていうのか、質の高さみたいな。 逆にその中でもご健在のアンチテーゼバリバリの歌詞が「かずかぞえ」では光ってますが(笑)。 やっぱりバカバカしい歌詞が周りに多いですかね(笑)。

■K: 違うんですよ(笑)! これはですね…(笑)、少し前に歌詞にダメ出しされた事があって、その時からすごく自分の歌詞のことを考え直すようになったんですけど、結果的に僕は僕で自分のいいと思う歌詞を突き詰めてやる!と思って何クソ精神で書いた歌詞なんです。 考えるきっかけをもらえて見えたものがあった、というか。 言われた時はショックでしたけどね(笑)、ちゃんと思ってくれてたり、聞いてくれてたりしなかったら言えない事ですから。 気づきのきっかけになったしやっぱり気にかけてくれる人がいるっていうのは本当にありがたい事だな、って思いました。 だから今回のアルバム、歌詞は今まで以上に細かいところまですごくこだわったんですよ。 全体的にはその時言われた事を気にしながら丁寧に、逆にこの「かずかぞえ」ではこれまでの自分の軸を重んじて、書いていきました。 そういう意味では歌詞に関しても、これまでの僕らの色と、新しい色の両方をちゃんと実現できてると思います。

ー 「Tansy」(M3)は過去曲で言えば「Locus」みたいな男ブチ上がる系の曲ですね。

■K: メロディーに和メロっぽい音階を使ってみたり、この曲もチャレンジでしたね。 「Locus」感は曲調もそうなんですけど、出来上がるまでの行程が一緒、っていうのもあって。 曲作りのスタジオ中に、一旦僕だけ10分くらい休憩したタイミングがあって、僕がスタジオを出てる少しの間に他のメンバーでフレーズを詰めてたみたいで、僕が部屋に戻ってきたらもうこのイントロが出来上がってました(笑)。 

ー あのシリーズですか(笑)。

■K: そう、このシリーズ結構良いんですよね。 メンバーが好き勝手やって作るとそれはまたいつもと違う感じになって。 

ー この曲はドラムの音がまた他の曲と違いますよね。 スネアはピッコロ?

■K: ピッコロではないんですけど、この曲だけドラムの音を結構加工してデジタルな感じにしてるんですよ。 他の曲では生のドラムの良さをできるだけ引き出すようなサウンドにもっていったんですけど、この曲だけ意図的にリズムも音質もこういうパキッとした仕上がりにしました。 ライブで演奏するまでに結構練習しなきゃな…と今思ってるところです(笑)。 でもライブでこういう曲が1曲あると映えると思うんで、ちゃんと練習してライブでも披露していこうと思ってます(笑)。

ー 「夜中の電話」(M4)、これはまたこれまでのギターで浮遊感出すバラードとは違った透明感。 

■K: そうですね、この曲が一番歌をがんばったし、ライブでもがんばらなきゃな、って感じですね。

一語一語、大事に歌っていく。

ー この曲の歌に関して、一番フォーカスした部分ってどんなところ?

■K: 技術的な面では、ボリュームのコントロールをすごく意識して歌いました。 今歌う時に気をつけてることでもあるんですけど、高い音は自然と声を張ってしまうし、低い音は音量も下がってしまう。 これをできるだけ均一に出せるように、この曲では特に意識してレコーディングしました。 やっぱり最終的にちゃんと歌詞が伝わって欲しいから、声を張りすぎてしまったり、聞こえなかったりで歌詞が届くのを阻んでしまわないように歌っていきたくて。

ー 歌詞のテーマに関しては、今回はフィクションが多め?

■K: 今回に関しては、ほぼ自分の事を歌ってます。 って言ったら歌詞読んでくれた人からすれば僕、結構ヤバい奴ですね(笑)。 今回は新体制一発目っていうのもあって、自分が今、歌いたいものをがっつり歌わせてもらいました。 等身大の自分を歌うのが今回やるべき事だなと思って。

ー 実話だったら歌詞ヤバければヤバい程おもしろいですね(笑)。 そして最後の曲「話しをしよう」(M5)は、さっきあった自信の反映というか、作曲面の質が一段上がった感じが「パレードは終わりさ」と同じくらい強い曲だと思いました。 今回の楽曲は全部最近の曲なんですか?

■K: そうですね、全部最近、今回の為に作った5曲です。

ー それこそ一曲一曲タイプの違う曲ですね。

■K: 特に歌では、一曲一曲人格変えて歌いましたね、それくらいしないと歌えないくらいいろんな方向性の曲をあつめちゃったもんだから(笑)。 だからレコーディングでは結構神経尖らせてました。 今回こういうアルバムを作れたことによって、今までの曲を歌う時も、歌に対しての気持ちの切り替えを意識するようになりましたね。 今はライブでも自分を追い込む訳じゃないですけど、集中して意識して、いろんな自分を出せるように努力してます。

— それぞれのパートの掛け合いもこれまで以上にクオリティーが上がった気が。

■K: 作詞作曲は僕がして、楽曲を詰めていく作業は他のメンバーを信頼してやってもらって、そういう阿吽の呼吸みたいな関係性の積み重ねが、今回の作品ではいい影響として出たのかな、と思います。 やっぱりメンバーそれぞれ個性も強いですし、目立ちたがり屋だし(笑)、これまでは作曲中に他のフレーズが歌のラインに被ってきちゃったりとか、なかなか一筋縄ではいかない事もありましたけど、今回はそういう経験も踏まえてお互い引くところは引いたり、良いバランスで成り立つやり方を見つけていけたと思います。 

ー 結構リリースも重ねてきましたからね。 

■K: まだフルアルバム出してないですけどね…(笑)。

ー それはもう本当に楽しみだし早くしてほしい(笑)。

■K: フルアルバムを出すときは、全編通しても飽きないような、それこそ一曲一曲個性を持ったものを作りたい、っていうのは今の段階からある目標です。 聴く人によっては飽きますからね、フルアルバムの尺は。 それを飛び越えていきたいです。

ー ライブと一緒ですよね。

■K: 本当そうですね、ライブでは最近演奏時間30分だと短くて物足りないですもん、ちゃんと自分たちの雰囲気を表現しきれなくて。

ー 次第にそうなってくんですね。 より長尺でたっぷり楽しめるエンタテインメントに。 タフになっていってるんですね、このバンドは。

■K: 今回は今までで一番クリエイティブな状態で完成出来ました。タフになったんでしょうね(笑)。 

ー ライブに関しては、遂に初のワンマンツアーが開催されますね。

■K: ようやくできます…ワンマンツアー…! 東京はLIQUIDROOM、憧れのステージに立てます。 前回のツアー名が「捨てられないからこのまま全部抱いて走っていくツアー」っていう丸々「Prism」っていう歌の歌詞から抜粋したフレーズのものだったんですけど、経験した辛い出来事も、今までバンドを続けてきた事も、これまで「なかった事にしたい」みたいに思ったことなんて一回もなくて、僕らの過去は僕らで大事に抱えながら前に進んでいきたい、っていう事を前回のアルバムで歌ってるんですね。 で、今回はアルバム名が「White」。 これは全部無くしてゼロから、っていう意味ではなくて、前回歌った過去を大切にしながら前へ進む作業の続きを意味したタイトルなんです。 あくまで塗られた過去の上から白を塗り足していく作業、再スタートみたいな意味合いです。 今までのいびつなthe quiet roomっていうものの上に真っ白なペンキを塗り足して、ここからまたどう転ぶかわからない活動を続けていきたい、っていう願いを込めてのこのタイトルです。 なのでツアーでもそういうこれまでとこれからの両方の面がちゃんと共存するようなライブをしていければ、って思ってます。

 

ー このツアーで本作の楽曲を演奏するにあたって、何か考えてる事ってありますか?

■K: 僕個人的に2曲目「かずかぞえ」がすごくお気に入りで、多分ライブで盛り上がる曲になるんじゃないかな、と思うんで、みんなでシンガロングできたらいいな、と思ってます。 結構中性的なイメージとかがあると思うんですけど、the quiet roomってシンガロングとかやりたいタチなんですよ。 みんなでがっつり盛り上がりたい。 だから今回の作品を通して、ライブではレベルアップした、さらにお客さんに伝わる演奏ができたらいいな、と思います。