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Tomy Wealth interview
- SPECIAL -

Tomy Wealth interview

Interview & Text : 鞘師 至

新世代Abstruct HipHop国内最高峰、ビートメイキングで切り出す独自の現代音楽

— DTMから繰り出すいわゆる電子音楽で表現の幅をアナログよりも自由に、かつ軸となるビートには自身の経歴を生かした生演奏によるドラムを起用し、人間的な躍動感でデジタルよりも力強く。 電子機器の発達と、その時代にありながら機械に勝り生き続ける人の表現力の2つが濁流となって混ざり合う、ハイブリットな現代音楽のひとつのかたちがTomy Wealthの音楽世界だ。 今作の『Prey』でも、ストリングスなどで紡がれる美旋律を屈強なハードコアドラムビートでブッタ斬るスタイルはこれまで通り健在だが、活動を重ねて変化しつつある表現の側面として、過去作『Hotel Otherside』から『Table Manner』を経て今作までで、音のイメージが”室内”的な空間のものから少しずつ、”室外”的なものへと移り変わっている部分が受け取れる。ジャケットデザインもこれまでのホテルの一室や中庭のような描写から、今作では雪林へと、物理的に外に足を踏み出していたり。 作品の世界観の広がりとリンクする感覚なのか、そういった表現の質感の変化が、音楽性の進化を具体的に表しているように思える。 音楽性で魅せる躍進感。 これは今、日本の音楽の土壌においてなかなか稀有だ。 それこそビジネスの側面が勝りがちな我々のこのエリアの音楽では、分かりやすく売れたアピールをする事でアーティストのステップアップを作っていくケースが多く、音楽的な進化はそっちのけの場合もあるが、まだこの時代も水面下で生き残るリアルなレベルミュージックの生存区域では逆。 音楽性の前進を見せつける事でファンを増やしていく。 Tomy Wealthの音楽も然り、後者の類だが、質を上げる作業というのはもちろん容易ではなく、今回のアルバム完成までには後退もしながら、着実に踏み外さない進路を見出していったそうだ。

■T:  4年半振り。 計10曲。 ずいぶん時間をかけてしまったけど、これ去年出来上がってたアルバムを一度全てぶっ壊して作ったんだよ。 「あぁ、これじゃダメだ」って。 曲をまた別で書いて収録曲を入れ替えて。 その段階では「Sabre Dance」(M2)とか、「Icarus」(M10)みたいなレベルに達してない曲が多かったから、これじゃネクストレベルいった!って証明できるアルバムにならないな、と自分で判断して一回ぶっ壊した。 

トライバルな要素を取り入れたかった。

— ビートメイカーという生業。 オリジナルのセンスを確立していく作業の他にも、楽曲だけで表現する世界だからこそ、フィーチャリングされる声との掛け算でまた如何ようにも肌触りを変え、軸となるアーティストの世界観をひとつひとつ新しい視点から観察できる点もまた、特筆すべき点だ。 これまでにも向達郎(kamomekamome)やMC Lord Kimo(ex-asian dub foundation)等のフィーチャーが話題となったが、今作でも各界隈で名を馳せる豪華なアーティストが4名、Tomyの音楽性の下に集まった。

■T: まずは「Tribe」(M3)でラップしてくれたSaukratesはトロントレペゼンのカナダ人で、祖国では1、2位を争う有名なラッパー。 同国のDrakeも彼に影響を受けてるくらいで結構なパイセンなんだよね。 なんだろう、こっち(日本)でいうと雷家族みたいなポジションなのかな。 元々俺がファンで、WENODっていう当時恵比寿にあったレコ屋でレコード買ってからずっと聴いてたラッパーで、俺の元サポートメンバーのAlan(カナダ出身のベーシスト)と話してた時に盛り上がって、Saukratesにオファーしてみよう、って事でメールして。 即OKもらったよ。 取り掛かる前にギャラの半額を振り込んで、すぐに制作スタートしてさ、すごいスピード感だったなぁ。 出来上がってきたラップもマジでイケてるし、やっぱりスキルがある人って作業も早いよね。 

— コネなし、音楽愛だけで猪突猛進メール1発で世界とつながるこの感じ。 これがレベルミュージックの醍醐味のひとつだろう。 熱量が高いプレイヤー、ファンが多いからこそ成り立つ行動力と作品完成度。 そしてラッパーとしてはもう1人、今作でフィーチャーされた人物が、全米のフリースタイルラップバトルで優勝を遂げているAdeemだ。

■T: Adeemもずっと前からすごいファンで、昔日本にあった良質の海外HipHopを国内でリリースしてるTRI-EIGHTっていうレーベルがあったんだけど、そこでAdeemを出しててさ。 そこで初めて出会って音源買って。 その当時からすげーヤバかったんだよ。 この人も今回オファーしたら二つ返事で引き受けてくれたんだけど、本当に光栄な事だよね。 こういう音楽愛だけで繋がっていける人間関係って美しいと思うよ、お互いの音楽を上げていく事にフォーカスして手を組む感じ。 ていうか俺には名声もコネもないから、それしかできないっていう(笑)。 今作のフィーチャリング相手は全員俺が元々ファンだった人達だからこそ、そこに反応してくれて本当に嬉し限りだよ。

— そういった意味で言えば「Icarus」(M10)で高音が突き抜ける魅了的な歌声を披露している里アンナも、今やNHK大河ドラマ「西郷どん」主題歌で一躍注目度が高まる渦中の歌い手だが、本作への参加が決定したのはその半年程前。 純粋にその才能に惹かれていたTomyがコンタクトを取った事からこのコラボが始まる。

■T: とにかく奄美のスタイルの島唄を楽曲に入れたくてずっと探してた。奄美のシンガーだと元ちとせさんや中孝介さんが有名だけど他にも色んなシンガーの方がいて、それぞれのスタイルが好きでさ、個人的に”楽器に負けない声” だと思ったのが今回の里さんだったんだよね。 ハイ上がりで抜けが素晴らしく良くてさ。 元ちとせさんとかはもう少しハイ落ちしてまろやかな感じ。 里さんの声だったら、俺ががっつりドラム叩いても絶対負けないな、っていう狙いがあって。 バンドと合わす事なんて普段ないかとは思ったんだけど、連絡を取ってみたら快くOKしてくれて、いざ制作に入ってみたらやっぱり歌声がとんでもなくて、本当にびっくりした。 すごく華奢な方なのにどこからそんな力が…ってくらい力強い歌声で、録音の時はマイクのゲインを下げるのに苦労したくらい。 撮り直しもなく一発OKテイクを出してくるし、すごい能力の人だったね。 あともう1人の共演は、俺の二胡の師匠、原田学吏先生。 今二胡をこの先生に習っていて、最初は自分で二胡を入れるつもりで練習していたんだけど、目の前にこんなに素晴らしい奏者がいるのに、作品でコラボしないのはもったいなすぎると思って、今回「Phantom」(M5)で弾いてもらったんだ。 案の定すごかったよ。 先生の方もこうやってバンドとやる事は初めてだったみたいで、興味を持って携わってくれたのも嬉しかったし。

腕っ節ひとつで世界と繋がり合う

— 今回のフィーチャリングでは、各々で民族性のあるものを自分の音楽と擦り合わせたかったという。 アメリカとカナダの本土で磨かれたラップも、沖縄奄美の伝統音楽も、中国の二胡も、狙い通りそのピースとしてアルバムの中で事実ソリッドな音として存在感をバリバリにそびえ立たせている。 今作で魅せた世界的には無名のビートメイカーTomy Wealthの音楽が、唯一モノの良さだけを認められ海を越えて世代を超えて、世界のあらゆるレイヤーの音楽とつながっていく流れは一様にして美しい。 日本が世界に誇れる文化は、ヒットチャートの中よりも、むしろこういう水面下に優麗にたなびくDIYシーンに眠っているという事を、本作で強く感じずにはいられない。 芸術面がビジネス面に殺される前に日本の音楽をアゲていく高貴な音楽は、メディア的な秘境、つまりは現場に今も確かに存在している。